ますかれーど
ドクン、ドクンと心臓が自分を主張するように鳴り始める。

ドクン、ドクン、ドクン

私は此処だよって言っているみたい。



「なん‥で?何であの人が出てくるの?」



自分でもびっくりするくらい、弱々しい声。

質問を質問で返したそれに、彼は答えてくれなかった。


ますます悲しみを深くして、その紺色の闇で私を見下ろすばかり。


私も‥見上げるばかり。



「ねぇ、心。俺を好きだって言って?」

「‥え?」

「今、すぐ」



好き?
すき?
スキ?


考えれば考えるほど解らない。解らないの‥



「それさえ言ってくれれば繋がれる。ひとつになれるから」



私の頬をスルリと撫でる細い指先。

それに、いつもとは違う、大人っぽい、妖しい声色に飲まれてしまいたくなる。



「心‥っ」



なんでそんな風に私を呼ぶの?



「お願いだよ心‥」





『知らねぇ』




ドクンっ




「俺を見て?俺を好きになってよっ!!心‥っ」



彼は首筋に顔を埋めて、私に痛みを与える。



「っ‥い、たっ」



強く強く吸い、歯を立てた彼。


その身体が、震えていると感じたのは
気のせい‥?




ーーーー‥




パタン‥と閉まったドアの音。


ズキズキと痛む左の首筋を押さえながら、ぐるぐると回るは彼の言葉。



『心ってさ、寝てる時いつも“クロト”って言うんだ。最近、特に‥さ』



離れてゆく彼の背中。
追いかけることが出来なくて。



『俺、ダメだね。余裕なくてさ‥』



握った拳は震えていてーー‥



『これ以上、心の側に居たら、俺‥心のこと、壊しちゃうかも』



その声すらも、震えてた。



『だからね、心‥』



やだ。

その先を聞きたくないーー‥



『少し、距離を置こうか』



私がいけないの。

私が私のココロを理解していないから。


流れに任せて、曖昧に付き合っていた私の所為。

いつかは好きになると思った。

彼の真っ直ぐな気持ちにたじろぎながらも、一緒に過ごしてきた楽しい日々。

取り戻した笑顔。


少しずつ、少しずつ‥本当に好きになっていたんだ。


彼の去ったこの虚無の空間に、後悔と自分への怒りがたくさん‥たくさん。


夏の終わりの空に光る満月。

光れば光るほど闇は濃くなる一方で……
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