ますかれーど
ごめんなさい。


ドアを閉めて
窓も閉めて
カーテンも閉めて


ココロも閉めて


膝を抱えて独りになる。



遅すぎた自覚の代償は、大きい。


いつもそう。

離れてから、初めて
失ってから、初めて

気づくんだ。



私が、光であるはずなんて‥ない。



誰かを照らしてあげられるなんて‥

自惚れにも、程がある。




ーーーーーーーー‥




ガチャ‥



「おはよう」

「あら、おはよう、心」



あれから幾日かが過ぎ、夏休みは終わって今日からまた学校。

足取りは重く、身体がだるい。



「心、お母さんたち今日からだからね?」

「ん?」

「温泉♪」

「あぁ~‥」



もうすぐ臨月になるお母さんは、優花さんと一緒に安産祈願を兼ねて、温泉に行くんだって。



「だから、今日と明日は麗花ちゃん家に帰るのよ?」

「ん。分かってる」



そう笑顔で返した私。

すると、真っ黒で綺麗な瞳をしたお母さんは、私をきゅっと抱き締めた。

大きいお腹がつかえて、腕が回ってない。



「今苦しんでるコトも、悩んでるコトも、きっと未来へと繋がって行くわ」



優しくて美しい声。



「大丈夫よ。だから、笑って?」



私は、うんって笑顔を見せたはずなのに。
お母さんのその綺麗な瞳は、悲しそうだった‥と思う。




ピーンポーン



玄関のチャイムが鳴り、ドアを開けるとーー‥



「おはよっ心」



麗花が立っていた。



「おはよっ!どうしたの?」



麗花の家からここまで来る間に学校がある。わざわざ迎えに来るなんて‥。



「ん‥頼まれたから」

「え?」

「紺野千秋に」

「ーーっ」



苦しくなる身体。

いまだに残っている左首筋の“跡”が疼いて、私をまた、後悔の沼へと落とそうとする。



「心?」

「ーー‥何?」



私は、目一杯の笑顔を見せて応えた。



「……また、戻ってる」

「何が?ーーっあ!もうこんな時間じゃん!行こっ!!行ってきまーす♪」



麗花の腕をガシッと掴んで、元気に勢いよく笑顔で登校。




まだ夏の残るこの暑さ。

蒼く蒼く澄み渡る空には、一片の雲もない。



一片の、雲もない。





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