ますかれーど
震える手を胸の前で握って抑える。

ほら、笑顔を作って?

心配かけたくないでしょう?


そうして私は‥

仮面を、被る。



「はは。私が泣く?有り得ないよ。泣きたくなったことなんて‥ない」



精一杯の笑顔と
ありったけの虚勢。



「ーー‥嘘だね」



その紅茶色の瞳は、私の蒼い瞳の奥を見てる。


“私”を見てる。



「‥かない」

「ん?」

「泣かない‥よっ」

「ん」

「泣いちゃいけないんだもんっ!!!」

「心‥」



ふわっと玄の香水が私を取り巻く。



「お前は、ここに居るよ」



ぎゅっと抱きしめてくれる筋肉質の腕。

私が壊れそうな時にいつも貸してくれた胸。


変わらない。


安心するの。



“私”は此処に居るんだって感じるの。


ありがとう、玄。

絶対に本人には言えないけどね?




ーーーーーー‥





「お前‥」



どれくらい経ったろう?


私を抱きしめたままの玄が、上から声を降らせた。



「でかくなったな、胸」



ーーー‥?



「ーー‥ッッ!!」



ドスッ!!



「イってーッッ!」



私は、玄のつま先を思いっきり容赦なく踏みつけた。



「ー‥っ何すんだよっ!!!」

「それはこっちのセリフだっ!何言ってんのよッッ!!このド変態がぁっ」



私は、玄から離れて警戒態勢をとる。



「んっだとう?思った事を言っただけだろうがっ」

「あんたにはデリカシーってもんがないの!?」

「ないね。あってもお前になんか使うかっ!!このボケナスっっ」

「こんの‥ナスビのくせにーッッ!!」





ーーーーーーーー‥





「う、るさぁぁぁぁぁぁーいッッ!!」




キィィーー‥ン‥



ぎゃーぎゃー言い争っていた中、勢い良く開いたドアから入って来たのはーー‥



「あんた達‥今何時だと思って?」



鬼の形相を笑顔に隠した、低血圧魔神の‥

ーー‥麗花だ。



「「は‥8時デス」」



声が強張り、2人で揃って答える。



「休日の私の睡眠を邪魔するたぁ‥良い度胸ね?」



綺麗な顔だからこそ、ニッコリ笑う麗花はーー‥恐いんだ。


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