ますかれーど
私の対面に座って、その長い足を組む。
ウッドテーブルに片肘をつき、どこか気だるそうに喋る。
「居たんだ」
「まぁな」
なんてことない、いつもの会話にほっとする。
わーきゃーしている部屋の中を眺めながら、流れる2人の間の沈黙。
秋の気配を匂わせた風がさらさらと通り過ぎ、月を更に隠してゆく。
キンッ‥ジュ‥
沈黙を破った聞き慣れない金属音。
暗い中で一瞬だけ見えた、青く揺らめく光。
口先で赤く光るそれは、口から離せば色は失せ、くわえればまた光る。
「何?」
「煙草‥」
「あ?」
「煙草なんて吸ってたっけ?」
「あぁ、まぁな」
私の知らない姿。
心臓が、ドクンと波打つ。そしてなぜか、きゅっと苦しい。
長い指先で器用に灰を落とし、またそれを口にくわえる。
ふぅーっと吐き出す息の音を聞く度に、私の心臓は苦しくなった。
これは‥悲しみ?
ーー‥遠いの。
この人は、とても遠い所に行ってしまった。
もう、私の知っている人じゃない。
手を伸ばしたって、届かない。
近いようで1番遠い人。
知らない男の‥人。
「おぃ」
「っ、へ?」
「ふっ間抜けな面」
そう言って笑うその人は、靴底で火を消し、携帯灰皿にそれを押し込んだ。
「俺、部屋に戻るから。お前も風邪引く前にあそこに戻れよ?」
長い指先が差した先。ガラス窓の向こうの温かい空間。
背を向けてスタスタと歩いていくその人は、少し進んだ所でピタリと止まった。
そしてーー‥
「はっぴばーすでぃ」
と、後ろ手を振りながらこちらを向かずに言葉を投げる。
ドクン‥っ
心臓が鳴った瞬間、私は走っていた。
自分でも解らない、無意識な行動。
そして、その人の腕を掴んだの。
なんだかその背中がさっきよりも遠くって、どこかへ行ってしまいそうで。
ここで捕まえなければ、もうずっと遠いままーー‥
そんな、気がしたの。
その瞬間
パシッ!!
「触んなっ!!!」
空間に響く、低めの、昔から私が大好きな声。
下弦の三日月が隠れてしまった、この暗い闇空に
強く
強く
私を拒絶する言の葉が
響き渡った。
ウッドテーブルに片肘をつき、どこか気だるそうに喋る。
「居たんだ」
「まぁな」
なんてことない、いつもの会話にほっとする。
わーきゃーしている部屋の中を眺めながら、流れる2人の間の沈黙。
秋の気配を匂わせた風がさらさらと通り過ぎ、月を更に隠してゆく。
キンッ‥ジュ‥
沈黙を破った聞き慣れない金属音。
暗い中で一瞬だけ見えた、青く揺らめく光。
口先で赤く光るそれは、口から離せば色は失せ、くわえればまた光る。
「何?」
「煙草‥」
「あ?」
「煙草なんて吸ってたっけ?」
「あぁ、まぁな」
私の知らない姿。
心臓が、ドクンと波打つ。そしてなぜか、きゅっと苦しい。
長い指先で器用に灰を落とし、またそれを口にくわえる。
ふぅーっと吐き出す息の音を聞く度に、私の心臓は苦しくなった。
これは‥悲しみ?
ーー‥遠いの。
この人は、とても遠い所に行ってしまった。
もう、私の知っている人じゃない。
手を伸ばしたって、届かない。
近いようで1番遠い人。
知らない男の‥人。
「おぃ」
「っ、へ?」
「ふっ間抜けな面」
そう言って笑うその人は、靴底で火を消し、携帯灰皿にそれを押し込んだ。
「俺、部屋に戻るから。お前も風邪引く前にあそこに戻れよ?」
長い指先が差した先。ガラス窓の向こうの温かい空間。
背を向けてスタスタと歩いていくその人は、少し進んだ所でピタリと止まった。
そしてーー‥
「はっぴばーすでぃ」
と、後ろ手を振りながらこちらを向かずに言葉を投げる。
ドクン‥っ
心臓が鳴った瞬間、私は走っていた。
自分でも解らない、無意識な行動。
そして、その人の腕を掴んだの。
なんだかその背中がさっきよりも遠くって、どこかへ行ってしまいそうで。
ここで捕まえなければ、もうずっと遠いままーー‥
そんな、気がしたの。
その瞬間
パシッ!!
「触んなっ!!!」
空間に響く、低めの、昔から私が大好きな声。
下弦の三日月が隠れてしまった、この暗い闇空に
強く
強く
私を拒絶する言の葉が
響き渡った。