ますかれーど
払われた手よりも

ココロが……イタイ。



高い位置から私を見下ろす紅茶色の瞳は、恐ろしいくらいに冷たかった。

ココロが震える。


仮面なんて、ただ自分を護るしか能のない諸刃の剣。

ひとたび太刀を浴びれば、スグに砕けて壊れてしまう。


怖くて恐くて悲しくて


どんなに手を伸ばしたって届かなくなってしまったその遠いヒトは、蔑むような瞳で私を見下ろしていた。

かつての光なんてない。
私の知っているそのヒトは、もういない。


何故だかとても悲しくて、目が熱くなる。ーー胸が‥っクルシイ。



「さわ‥るな」



バッと目を逸らし、一転弱々しく響く拒絶。

私が触れた腕は、もう片方の手で爪を立てる程に強く掴まれていた。


払われた手は行き場を無くして宙に浮いている。


こんな時、どうすれば良い?

私の持っている答えは1つだけ。



ほら。描いて?
この顔に偽りの笑顔を。



「あ、ごめんね。強く掴み過ぎちゃったかな?なんだろ?力ありあまってんのかなぁ?」



宙に浮いていた手を胸元に引き戻して、ぎゅっと握る。



「ワタシ、リビングに戻るねっ。あんたも、風邪引く前に部屋に戻りなよ~?」



完璧に描いた笑顔。
演じた台詞。

まるでワタシは道化だ。


はははと笑ってそのヒトを追い越し、玄関へと歩みを進めたワタシ。






「‥てよ」



秋の風が強く吹く。

サラサラと木々が鳴き、カラカラと風見鶏が回った。






「ーーっ待てよ!!」



ビクリとする程の、鋭くて大きくて響くその声に、ワタシはゆっくりと振り返る。



月の隠れてしまったこの闇夜。

それでも射す夜の光の中に浮かんだ、あなたの顔。


なんて なんて


苦しそうなのーー‥。



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