ますかれーど
私の部屋より狭く感じるのは、この異常な数の本のせい?


お父さんの背よりも高い本棚が、壁を一周してる。
半分だけ見える窓は、開けるのが難しそうだ。


本を読むには足りないくらいの、薄暗い照明をつけて、ガラスのデスクに散らばる本や、周りを取り囲む本棚を眺めた。



クラシックのスコアや、今までお父さんが唄ってきた楽譜‥。

文学書とか、聖書まである。


料理の本や編み物の本は、お母さんのかな?



『良い父親になるために』ってのも見つけた。

よく見れば、教育の本や子供との接し方って本もある。



私の‥ため?



お母さん‥。

ねぇ、どこにあるの?
私、何を見つければ良いの?



ごそごそと探ってみるけれど、それらしいものはない。

本棚の本を床に散らして、引き出しっていう引き出しを開けて引っ掻き回す。


ない。ない!ないっ!!

なんなんだよーー‥


椅子にヘタリと座り込んで、デスクに顔を突っ伏した。

その時ふと目についた、1冊の絵本。



「懐かしい‥これ、よく読んでた」



時間がないのは分かってる。急がなければならないことは分かってる。

でも、私の中で誰かが“これを開けろ”って言ってる気がしたんだ。


そっと開いたその絵本。

それは、蒼銀の狼と、黒い猫の恋のお話。


ほとんど文字なんかなくて、クレヨンで描いたような綺麗な絵が好きだった。


厚紙を1枚1枚めくっていった最後に、ひっそりと挟まっていたこれ。


『おかあさんっ!はいっ!おまもり、あげるねっ』



そう、きっと、これが御守り。

これ‥とってあったんだーー‥


私がまだ保育園の時、もうすぐ兄弟ができる事が嬉しくって嬉しくって。

習ったばかりの折り方で、小さな小さなその手で折った、不細工で、いびつな折り鶴。

和紙がけっこう堅くって、折るのにかなり苦戦したっけ。



「見つけたよ‥お母さんーー‥」



折り鶴をぎゅっと握りしめて、額にあてた。

どうか、どうか、母子ともに、無事でありますようにーー‥



「おい」

「ひゃっ!!」





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