ますかれーど
--麗花side--
あたしさ、ずっと‥産まれた時からずっと、あの子の1番近くに居るの。
笑ってる時も、泣いてる時も、蒼い瞳のことでいじめられて、その子と喧嘩した時も。
ずっと、ずっと。
だから‥ね?
あの子が壊れた姿や、
笑顔を取り戻した姿も、よく見てきた。
ちょっと前はさ、楽しそうに、幸せそうに笑ってたんだよ?
なのに‥なのにっ
なんでこうなっちゃうのかなぁ。
なんで運命は、あの子に辛く当たるのかなぁ?
患者のいない、静かで暗い病院の中。
目の前に灯っていた赤いランプは、とうに消えた。
蒼さんが呼ばれて、中に入って。
入れ違いに看護士さんが出てきて。
あたしと父さん、母さんは知った。
母さんは、ガラにもなく大きな声を出して泣いてた。父さんも。
よく響くこの廊下の音は、悲しみを唄って‥。
ちょっとね?
この病院に辿り着くのに時間がかかったの。
いつもの病院は、たまたま先に入った急患や、緊急手術が重なってて。
魅さんを乗せた救急車は、他へ行かなきゃならなかった。
ぐるぐるぐるぐる回って、やっと着いたこの病院。
少し、遠くって。
間に合わなかった。
赤ちゃん、間に合わなかったの。
魅さんが苦しんでいたのは、産まれてくる予兆じゃなくて、
赤ちゃんが、苦しいよ‥苦しいよって、もがいていたからだったの。
母体は、昏睡状態で‥
とても危険だって。
そう‥告げられた時だった。
遠くから、パタパタパタパタとこちらへ一直線に走ってくる音が響き渡った。
父さんも、母さんも、涙を拭いて、走ってくるその足音が此処へ来るのを待つ。
大きな窓から射し込む月の光は、薄く、明るい。
口が裂けた人形のように
ニンマリと笑っているのは、下弦の‥三日月。
ただ、闇に飲まれてゆくだけの
下弦の、月。