ますかれーど

--麗花side--





あたしさ、ずっと‥産まれた時からずっと、あの子の1番近くに居るの。


笑ってる時も、泣いてる時も、蒼い瞳のことでいじめられて、その子と喧嘩した時も。

ずっと、ずっと。



だから‥ね?

あの子が壊れた姿や、
笑顔を取り戻した姿も、よく見てきた。

ちょっと前はさ、楽しそうに、幸せそうに笑ってたんだよ?


なのに‥なのにっ


なんでこうなっちゃうのかなぁ。


なんで運命は、あの子に辛く当たるのかなぁ?



患者のいない、静かで暗い病院の中。


目の前に灯っていた赤いランプは、とうに消えた。

蒼さんが呼ばれて、中に入って。

入れ違いに看護士さんが出てきて。

あたしと父さん、母さんは知った。


母さんは、ガラにもなく大きな声を出して泣いてた。父さんも。

よく響くこの廊下の音は、悲しみを唄って‥。



ちょっとね?
この病院に辿り着くのに時間がかかったの。

いつもの病院は、たまたま先に入った急患や、緊急手術が重なってて。

魅さんを乗せた救急車は、他へ行かなきゃならなかった。

ぐるぐるぐるぐる回って、やっと着いたこの病院。


少し、遠くって。



間に合わなかった。


赤ちゃん、間に合わなかったの。


魅さんが苦しんでいたのは、産まれてくる予兆じゃなくて、

赤ちゃんが、苦しいよ‥苦しいよって、もがいていたからだったの。



母体は、昏睡状態で‥
とても危険だって。

そう‥告げられた時だった。





遠くから、パタパタパタパタとこちらへ一直線に走ってくる音が響き渡った。



父さんも、母さんも、涙を拭いて、走ってくるその足音が此処へ来るのを待つ。





大きな窓から射し込む月の光は、薄く、明るい。


口が裂けた人形のように
ニンマリと笑っているのは、下弦の‥三日月。




ただ、闇に飲まれてゆくだけの


下弦の、月。






< 125 / 207 >

この作品をシェア

pagetop