ますかれーど
びっくりしたけど、
叫んじゃったけど、

すぐにそれが誰なのか判った。だって、長い付き合いだもん。



「あーびっくりした」



そう言いながら月明かりの下に出てきたのは、長い綺麗な紅茶色の髪をひとつに結んだ麗花だ。



「やっぱりここに居たんだね、心‥」



つかつかと近寄って来た麗花は、座っている私を苦しいくらいにギューッと抱きしめた。



「麗花、苦し‥っ」

「苦しめ」



言葉の割に、その声は弱々しくってーー‥



「急に居なくなるから‥っく、心配したんだよ?」



泣い‥てるの?

麗花の胸が、ひっく、ひっくと上下してる。



「心なんかだいっきらいなんだから」

「‥ん」

「いっつもいっつも心配かけやがって」

「ん、」

「ーーっもしかしたら‥もしかしたらって、怖かったんだからっ」

「ん」

「心のばかぁ」

「ごめんね、麗花」



顔を見せた麗花の紅茶色の瞳は、キラキラゆらゆらしてる。

今にも溢れて零れてしまいそうで‥



「心なんかナス食べられないくせにさっ」

「ん?うん」

「すぐコケるし」

「う?」

「むしろ、髪の毛こけしだし」



んー?



「ほんとは、」

「ん?」

「魅さんと同じくらい、くりくりのくせに」



ストレートパーマが落ちかけた私の髪の毛。

そう。ほんとは、お母さんの黒い猫みたいな髪の毛と同じように、くりくりなの。



「こんな時くらい、もう‥ココロを砕くのなんてやめて、側に居てあげなよ」

「麗花‥」

「あんたにしか出来ないこと、あるでしょ?」






『君にしか出来ないこと、もっとたくさんあると思うよ?』






私にしか、出来ないこと。


右手に握った御守り。
お母さんは、私に“持ってきて”って言ったんだ。



「行こう、心」

「うんっ」



私は思いっきり笑った。

泣いてる顔なんて、お母さんに見せられない。

お母さんが目覚めて1番最初に見せるのは、笑顔だから。



「その笑顔、魅に見せに行くぞ」

「うん!」



お父さんも、その綺麗すぎる顔に笑みを浮かべて歩きだす。



「おら、兄貴!いつまでシリモチついてんのよ」

「あ?あぁ‥」

「ヘタレ兄貴」



麗花は、ぶつぶつ言いながらその人へと近づいた。

悲しそうな瞳を私に残して……


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