ますかれーど
それとね?
初めて“親戚の人”に会ったの。

お母さんの、お母さんの、お兄さんの、子供さん?……よくわかんないや。

でも、お母さんと同じ真っ黒な瞳の、綺麗な女の人と男の人だった。


その人たちは、私を見ると「そっくりだね」って声を揃えて笑ったんだ。
その顔は、どこかお母さんに似ていて。

私にも、少しだけ似ているような気がした。


なんか、嬉しかった。




ピッ‥ピッ‥ピッ‥



機械的な音が断続して響くこの病室には、ついに私とお父さんと紅澤家だけになった。


早々と顔を出していた
十六夜月は、低空飛行で南の空を駆けて行く。




ピッ‥ピッ‥ピッ‥


機械的なその音は、段々と遅くなり、アダージョのテンポにまで緩やかになった。




そして誰も、言葉を発しなくなった。




ただただ、祈るだけ。

神様なんて信じてなかったけど、もしも本当に居るのならば、



お母さんを、助けてください。



代価が必要なら、私の一生分の幸せをあげる。

3人で一緒に生きて行ければ、それで‥良い。





お願い。

お願いっ

お願いっ!!






ーーーーーーーー‥





その時だった。



私が握っていた、お母さんの右手がピクリと動き、その大きくて真っ黒な瞳が半分だけ姿を見せた。



「おかあ‥さん?」



私のその言葉に、5人が一斉に顔を上げる。



「魅っ」

「みぃっ!」

「魅ちゃん?」

「「魅さんっ!!」」



お父さんがナースコールを連打すると、白衣のおじさんと、ふくよかな看護士さんが急いで来てくれた。


なにやら検査をし始めたその横で、私たちはお母さんを呼び続ける。



「魅?わかるか?俺だ」

「お母さん、お母さん」



でも、いくら呼びかけても、お母さんの瞳は虚ろでーー‥





「ーーっ‥ー」

「何?聞こえないよ」

「‥ーー‥」

「魅?」



呼吸器の中で、何やら喋っている様子のお母さん。


お医者さんが、そっとそれをはずしたんだ。



「おま‥もり」

「あるよ。ここにある」

「あり、が‥とう」



左手に握らせた、歪な鶴。感じてくれてるの?





ピッ‥ピッ‥ピッ‥



アダージョのテンポを刻んでいたそれが、だんだんと‥遅くなってる気がしたんだ。




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