ますかれーど
踊ろう?

奏でるカプリチオは
黒い猫のために。


唄おう?

気まぐれで自由な
黒い、猫のように……




…ー、‥~あ、い‥♪



たどたどしく唄い始めた、お母さんのその歌声は



ー、ー‥~、ーー♪



限りなく透明で
限りなく美しくて



てーー‥ん、し‥ー♪



微かで多数の嗚咽の中に

美しい粒になりながら、零れ落ちながら響いている。



ーー‥~、ーー‥‥♪




ピッ‥ピッ‥ピッ‥


刻むアダージョに合わせて

重ねたお父さんと私の歌声は

周りの嗚咽を大きくするばかり。



ーー、ーー‥♪
ーー、ーー‥♪
ーー、ーー‥♪



高音と、
低音と、
真ん中の音が奏でる

その三重奏は、


きっと、

最初で‥最期の歌。



ーー唄っ、て……♪
ーー唄って……♪
ーー唄って……♪



私たち銀崎家よりも、
紅澤家の方が泣いてる。

不思議な光景だ。



「そ‥う」



歌が終わって一呼吸ついた時、お母さんが呼んだのは、お父さんの名前。



「なんだ?魅」

「あり‥がとう。ごめん、ね」



お母さんがお父さんに伝えたのは、感謝の言葉と、謝罪の言葉。


愛おしそうにお母さんの髪を撫でるお父さんは、今、どんな顔をしてるのかな?



「しん‥心」

「お母さん」



強く強く手を握って、“私は此処だよ”って伝える。



「笑っ、て?」



そう言って美しく微笑んだお母さん。

私‥今どんな顔してる?


「蒼‥」

「ん?」

「心‥」

「何?」



「愛、してる……」



間接照明しかつけていない、薄暗い病室の中。

お母さんの綺麗な黒い瞳が、キラキラと光っていた。



「キレイだ、ね‥」



私たちの背中側にある、大きな窓を眺めるお母さん。


私も、みんなも、振り返って窓の外を見た。

すると……


チカチカキラリと流れてゆく、無数の光。


衣替えをした秋の木々に降り注ぐ、星の雨。


綺麗だった。


空が泣いているみたいに、ひとつ、またひとつと星を零してゆく。


ーー‥流星群。



「綺麗だねっ!お母さんっ」



そう元気に声をあげて、満面の笑顔で振り返った。

その時だった。




ピーーーーーー‥




機械的な継続音が、

この、静かな部屋の中に


ーー‥響き渡る。

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