ますかれーど
「あ‥出かけてきます」



ニッコリと笑顔を貼る私。

蒼い瞳で仮面を貫かれるその前に、私は此処を離れなきゃ。



「銀崎 心」



私を呼んだアナログおやじは、いつものようなおちゃらけた感じではなくて‥



「お前よぉ、」



お酒の缶をプシュッと開けながら、たまに見せるこの真剣な顔。

‥苦手。


きっと、この人は知ってる気がするんだもん。

全部、全部‥。



「なに?ってか、何故にフルネーム?」

「んー‥」



背もたれに寄りかかりながら、うなり声をあげるやつ。

やっぱり意味がわかんない。



「毛虫に気を付けろよ?」



ーー‥は?

やっぱり意味わかんない。


いや。この人に意味を求めてはいけないのかも。



「行ってきます」



何事もなかったかのように私は家を出た。


その背中を見送っていた“蒼”と“黒”の瞳。

それらが

とてもとても悲しい光を放っていたコトなんて‥知らない。





ーーーーーー‥





「はぁー‥」



電信柱を通り過ぎる度に出るため息。

ついた数だけ幸せが逃げるってほんとかな?

幸せって、元々いくつあって、そして今いくつなんだろ‥。


そんなことをずっと考えてた。



風が私の背中を押すように流れて

雲は私の行く道を教えるように、先へと進む。


ふっと足を踏み入れたいつもの場所。


ピンク色のチューリップがまだ咲いている、学校の中庭だ。



「ここが1番 落ち着くよ‥」



ほっとする。

木の葉の天蓋から溢れる春の光。


その光が照らす、いつもの赤いベンチにはーー‥



「誰‥?」



少し高めの声が私に尋ねた。

ここに人が居たことなんてないのに‥。



「あなたこそ誰?」



1歩ずつ1歩ずつ近づいて行くと、見えたその風景に瞳を奪われた。


青光りするくらいの黒い綺麗な髪に大きな瞳。

緩めのジーンズに、チューリップと同じ色の長袖のシャツが良く似合う。



綺麗な人ーー‥



「俺は、ここの1年だ。あんたは?」



若干 失礼な言葉遣いにムッとしながらも、ここは先輩として答えておかなきゃ。



「私はここの2年よ」

「あそ」



ってか、こいつ‥


ーー‥むかつく。


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