ますかれーど
「へっくしっ!ずび」

「何?風邪?」

「あーいや、平気」

「そんな薄着してるからだよ。ってか、これから出かけんのにまだパジャマなわけ!?」



麗花は、楽しそうにぷりぷり怒りながら、私の背中を押して家へと入ってく。



「兄貴!」

「あ?」

「時間かかりそうだからその車、駐車場いれて」

「‥あぁ」



この人は、相変わらず瞳を合わせてくれない。でも、会話は普通になったかな?



チーン‥



家の中へと入るなり、すぐさまお母さんへと挨拶してくれた麗花。



「ありがとう」

「ん♪」



顔を上げた麗花は、その紅茶色の瞳を優しく細めて私のココロを包む。



「さ、着替え着替えっ」



時計を見れば、約束の時間まであと1時間以上ある。

それはきっと、お父さんが出発した後で、私が1人にならないように‥かな?


そんな2人の優しさが嬉しいと、この2人が幼なじみで良かったと、そんなコトを思いながら、お出かけ用の服に着替える。



「お♪心かわいっ」



リビングまで下りてくると、いきなりぎゅーっと抱きしめられる。

英国風の長めのスカートにトレンカって格好は、麗花のご要望なんだ。



「あとはメイクだね」



チーン‥



向こうの部屋で、あの人がお母さんに挨拶してる音が聞こえた。

そして、のっしのっしとこちらに歩いてくる。



「おい」



そう言いながらリビングのドアを開けたその人の瞳が、2人並んで化粧をし始めた私たちに向けられようとした。


その瞬間、ふぃっと逸らした瞳。

その人も、私も……


瞳を合わせてくれないんじゃない。私も、合わせないんだ。


合わせるのが‥怖い?
なんか、そんな感じ。



「なんだよ。俺の集合、まだ後でも良かったんじゃねぇの?」

「気にすんなよ兄貴」



元々長いまつげにマスカラを塗りながらそう答えるこの麗花の前では、この人の“兄貴の威厳”ってのは皆無だと思う。



「はぁー‥キッチン借りんぞー?お前、朝メシまだなんだろ?」

「あ‥うん」

「何か希望あるか?」



背を向けたまま話すその人の背中。近いようで‥遠い。



「パズーのパン‥」

「あいよ」



おっちゃんみたいな返事を残してキッチンへと消えたその人が、少し笑っていたような気がして。
ちょっと、嬉しかった。
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