ますかれーど
パンが香ばしく焼ける匂いと、ジュージューと鳴る音がリビングまで入ってくる。

先に化粧を終えた麗花は、私の髪の毛をといていた。



「完璧にストレートパーマ落ちたねぇ」

「いや、多分‥まだ少し残ってるよ?」

「お?そんなにくりくりだったっけ?」



お母さんと和解したあの日から、ストレートパーマはかけてない。

だから、お母さん譲りのこの真っ黒な髪の毛は、あっちこっち自由にくりくりしてる。



「くせっ毛だねぇ」

「まぁね♪」



といてもといても真っ直ぐになることのないこの髪の毛。今では、すごく大切なもの。

あれから切ってないから、もう肩の下くらいまであるんだ。伸ばそうと、思ってる。



「出来たぞー化けんの終わったかー?」



化けるってアンタ‥

2人揃ってダイニングへと行くと、綺麗に3人分のランチョンマットが敷かれていた。

いつもの席に着くと、私の前に朝ご飯を運んでくれたその人の手。

こんがり色づいた、4枚切りで薄めの食パンに、ギリギリ半熟の目玉焼きが乗ってるやつ。

あの注文の仕方でコレが出てくるようになったのは、いつからだろ‥?



「兄貴ぃ殻見つけた」

「うっせ食え」



食べる前に見つけてしまったらしい、私と対面に座った麗花のところには、綺麗にぷよんって巻かれたオムレツ。


そして、私の右隣に座る作った本人のところには‥



「なんでチョコレート?」

「あ?」

「兄貴は食べないの?運転手なのに」

「俺、家で食ったし」



これは‥おやつ?



「欲しいならやるよ?車にまだあるし」



この人‥昔からこーいうわかんないとこあるんだよなぁ。



「俺、先に車に居っから。片付けたら来いよ」



後ろ手を振りながらダイニングを出て行くその人の背中を、「「おー」」って声を揃えながら見送る。


こうして後ろ姿を見ることは出来るのに。

その長い指先を見ることは出来るのに‥


あの人の身長が高くて良かったと‥思った。

だって、わざわざ見上げなきゃ顔は視界に入ってこないもん。

あの瞳を、見なくて済むもん。



「心?」



麗花のその紅茶色の瞳は、あの人のそれと似てる。心配そうに、揺れてる。


「行こっ麗花♪」



片付けを終え、外に出た。

朝靄から抜け出した太陽は、キラキラと私たちを照らしている。
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