ますかれーど
暖かいココアの缶を、両の手のひらでコロコロしてみる。

かじかむ事を思い出してきた手先に熱が伝わって、ジンジンとした。



「会長?」

「なーに?」



オレンジ色のキャップをひねりながら、ゆるーく返事をした会長は、その紺色の瞳で私を見る。

それがあまりにも“彼”と同じ色だから。


ドキドキする。
ザワザワする。


ーー‥苦しくなる。


手が熱を奪っても尚、まだ暖かさの残るその缶を、左胸に押し当てた。


なんとなく‥いや、確実に判ったんだ。


覚えてる?

もう1つの香水のこと。


光をすべて吸い込んでしまうような、深い深い紺色の小瓶。

その香りの持ち主で、紅のと一緒に、2つのそれらを私に贈ったヒト。


私を、メビウスの闇から引き上げてくれた、優しい声のヒト。



「香水‥」



“彼”‥なんでしょう?よぎるのは、震える声と小さく見えた背中。



「ん。欲しいって言ってたもんね」



それを私にくれたのは、会長じゃない。ーーそれくらい、判るよ?



「2つ‥ありました」

「2つ?」



一瞬だけ寄せた眉に、会長の動揺を読み取る。



「1つは彼の香り、もう1つは‥」

「玄さんの‥か」

「ーーっ!!」

「残酷なことするね、あいつも」



そう言って細い飲み口から流し込んだそれが、会長の喉を鳴らす。

風に乗ったその苦い香りはどこへ行くの‥?


少なくとも、私のココロに沁み入って、苦さが胸を締め付けることに変わりはない。



「ねぇ、銀崎さん」



私を見据えた切れ長の紺色は、真剣だった。

逸らすことなんて‥できない。



「僕は、あの子が大切なんだ。たった2人の兄弟だからね」



その瞳に光るものーー‥



「だからさ、」



それがキラリと私を捕らえて



「これからもずっと、あいつの側に居てほしい」



ーー‥離さない。

そして、



「だからね?」



残酷な紺色の瞳は



「玄さんとは、もう会わないで。忘れて欲しいんだ」



私をーー‥縛る。






ゆらゆら、ゆらゆら

ぐるぐる、ぐるぐる


煌びやかに惑わしては

ココロを攫うメリーゴーランド。




囚われしお姫様は

再び


仮面を被る。



< 151 / 207 >

この作品をシェア

pagetop