ますかれーど
体温計で熱を計った時、思いもよらず高かったりすると、いきなりクラってなるの。

どこで作ったのか分からない、怪我や打ち身を見つけると、その瞬間から痛み出すの。


それと、同じ。


“玄さんが好き?”

そんなことを聞かれて、アタマを支配したのはあの人。


筋肉質の腕。
長い指先。
高い身長。
低い声。

大好きだった、失われた香り。

ワタシを見抜くーー‥紅茶色の、瞳。




トクン、トクン‥




下手な三味線。
ボケナスって叫ぶ声。

ーー‥いつも泣いていた、あの胸。




トクン、トクン、




いつも一緒だった。
いつも、一緒だったんだ。





『お前の真っ黒な髪も‥お前の蒼い瞳も、大好きだよ』





今‥解った。

きっと、きっとね?


あの時から、私は、あの人のことが好き。


近くて、近すぎて、わかんなかったんだ。


隣に居ることが当たり前だと思ってた。


だから、眼中になかった‥って言えば良いのかな?



『知らねぇな』

そう言われて苦しくなった。悲しくなった。


『泣け、心』

抱きしめられて、素直に涙を流すことができた。



あなたの言葉に一喜して
あなたの言葉に一憂する。


あなたの瞳が大好きで
あなたの香りが大好きだった。



あなたが、好き。


私、あなたのことが、
大好きなんだーー‥




ぽろぽろ流れては伝い落ちるそれを、止めることが出来なくて。

うまく出来ない呼吸を、必死で整えようとした。

窓から聞こえる元気な声に紛れ込ませた嗚咽は、真実を見つけた証。





「ねぇ、銀崎さん?」



ハンカチを差し出しながら、柔らかく話しかけた会長。

その瞳は、けして柔らかくなんかなかった。



「でも君は、千秋の彼女だ。ーー‥なんて言って別れるの?」

「ーーっ」

「他に好きな人が居るから、別れてくださいって?」



なんてーー‥なんて‥



「勝手すぎるよね?それじゃぁ千秋、壊れちゃうかもね?」



切れ長の紺は、蒼を完全に捕らえる。



「さっきも言ったけど、僕は、あの子が大切なんだ。悲しそうな顔なんか、見たくない」



それは、青の世界で最も強い色。



「だから、玄さんのコト‥」



美しくニッコリと微笑む紺が




「‥忘れて?」




蒼を、飲み込む。


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