ますかれーど
僕は常にトップでいることを強いられ、何事をも受け入れる器の大きさや、人を動かす技量も求められた。

でも、苦ではなかった。むしろ‥楽だった。

指示を待てば良い。父からの指示を。

僕はただの操り人形なんだ。父は、自分のコピーが欲しいだけ。

それなら簡単なこと。

父が望むように。
父が好むように。

そう動けば良いだけ。
‥それだけ。


「聞いているのか、愁一」

「はい、聞いています」

「ったく‥お前ももうすぐ高校生だ。自覚を持ちなさい」

「……はい」


操り人形でいることは苦じゃない。でも、僕にだって感情はある。


「行って良いぞ」

「はい。失礼します」


パタンと重いドアを閉めて、大きなため息を吐く。


「愁一さま、お茶をご用意してございますよ」

「ありがとう、凉」


父に呼ばれた後は決まって、凉か母が淹れてくれたお茶を飲む。


「ふふ。そのご様子じゃ、あまり良いお話ではなかったようですね」


凉は昔からの執事で、僕たち兄弟の世話係をしている。歳は不明。随分と居るはずなのに、その綺麗な容姿からか、かなり若く見える。


「なにか悩まれております?」

「……うん」


凉のカンは鋭く、小さな時から隠し事はできない。


「何でも言ってくださいね?言えることならば‥ですけれども」


母と凉が育てたハーブの香りがとても安らぐお茶を飲み、精神安定を図る。


「そうだ。愁一さまにお願いがあるんです」

「何?」

「私、明日より5日のお暇を頂戴いたしますので」

「実家に?」

「はい」


飲み干したティーカップにまたお茶を淹れながら、凉は嬉しそうに笑う。


「その間、千秋さまを起こしていただけませんか?」

「朝?」

「はい」

「カズは?」


そう言うと、凉は眉をひそめて表情を曇らせた。


「3年ほど前‥だったでしょうか?私の代わりにカズに千秋さまを起こしに行ってもらったら……」

「あぁ‥っ」

「覚えておいでですか?」


思い出した。あの朝、千秋は大泣きしたんだ。
海坊主が出たって。


「あのスキンヘッドがいけないんですよね‥海坊主」

「くっくっそういえばそうだったね」


カズはもう1人の執事。
ガタイが大きくて、格闘家っぽい強面の男。

そのスキンヘッドは、もう生えてこないらしくて。それじゃぁ仕方ないよね?
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