ますかれーど
「シュウ、ちぃ♪」

「「母さん」」


父とは逆に、母はよく笑う人だ。大きな音楽系の会社の社長で、父と同じくらい仕事をしているはずなのに、柔らかく、とても明るい人。


「家に居るなんて珍しいね?」

「時間が空いたから、あんた達とご飯食べようと思ってねっ」


にこやかに笑う母は眩しくて、僕たちを分け隔てなく愛してくれる。


「母さん、母さん」

「なぁに?ちぃ」

「母さんが晩メシ作るの?」

「そうよ♪」


こんなに広い家なのに、執事は2人しかいなくて。


「じゃぁ俺、シチューがいい!」

「ふふっかぼちゃの?」


料理はもちろん、掃除や洗濯などの家事はなるべく自分でやるような人。


「母さんは意地悪だっ。兄さんと同じだっ」

「なんだぁ?千秋、まだかぼちゃ嫌いなわけ?」

「兄さんだってニンジン食べないじゃないかっ」

「僕は食べるよ?母さんが作ったものだからね」

「じゃあ、シュウのにはたくさんニンジン入れよっと」

「母さん‥」

「ぷっ兄さんやっぱり」


穏やかに笑い合いながら流れる、ごく普通の生活。


「さぁてと。メニューは決まったね!かぼちゃとニンジンのシチュー♪」

「「母さんっ」」

「あれ?違った?」


こっそりと見ていた凉やカズも、くすくすと笑ってる。

笑いが溢れていたんだ。


僕たちは、母さんを中心に回っていた。

ぐるぐるぐるぐる楽しく回っていたんだ。


それは回転木馬のように。



でも

この家には

そんな楽しいメリーゴーランドに似合わない

“黒馬”が居たんだ。



その黒馬は

僕たちの

全てをぶち壊していく。




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