ますかれーど
「ねえ、シュウ?」

「ん?」


月の光はとても透明で、映し出す影は、小さな母さんを更に小さく見せる。


「ごめんね」

「何が?」

「あんたが1番辛いのよね。あんたが1番‥泣きたいわよね」


透明な光は目元を照らし、反射を繰り返す。


「あんた、昔から泣き虫だもんね。ふふ」

「僕は別に‥」


くるりとまた窓を向き、透明な光の源を見上げた母さんは、自嘲するように口の端を上げた。


「だめね。母親失格」

「母さん‥」

「千秋の前で泣いちゃってね、失敗したぁ」


そう言っておでこに手を当てた母さん。


「あの人によく似た紺色の瞳は、あの人への憎しみに変わってしまったわ」


キラキラと光る薄い黒色の大きな瞳は、ゆらゆらと揺れていてーー‥


「ごめんね、シュウ」


僕は、透明な光の中でただ立っていることしか出来ない。

何も出来ない。


僕がもう少し早く生まれていれば

僕がもう少し大人だったなら


もしかしたら、何かが変わっていたのかもしれないのに。



「ねえ母さん‥」

「何?」

「僕、父さんの方に残ろうと思ってるんだ」


すると母さんは、一瞬だけ瞳を大きく見開き、そして今度は優しく弓なりに形を変えた。


「……そっか」

「うん」


その白い頬に一筋の雫が流れ落ち、ただ一言「ありがとう」と言った母さん。

母さんもまた、後悔をしているのかもしれない。

大人になればなるほど素直になれなくて。

父さんの想いも、母さんの想いも。

いつか繋がるその日まで

また一緒に暮らすことが出来るようになるその日まで


僕は父さんの元へ。


そう決意を固めた、雲のない、半月の夜だった。



光と闇がまっぷたつ。

キラキラ輝く半分と
闇に飲まれる半分と。



ただひとつ気になるのは

強い強い憎しみに色を染めた、大きな紺色の瞳。





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