ますかれーど

--姫衣side--




私、大好きなの。

シュウも、ちあも、おば様も、そして‥おじ様も。


おじ様は、私には話してくれた。だから私も、おじ様に話していた。

今日のちあはどうだったかとか、また夕飯のかぼちゃを残したんだよとかーー‥


歪に見えているのは、当人たちだけ。

私や凉やカズから見れば、いたって普通の家族だったんだよ?

それが……こんなことになるなんて。


「姫衣、そこに居るね?」


凉から連絡をもらって、私は紺野邸に来ていた。
そしたら、ちあの怒鳴り声が聞こえたの。


「‥うん」


ウラギリモノ。
その言葉は、シュウにどう響いているのかな?


「お願いがあるんだ」


シュウは、背中を丸めることなく、声を震わせることもなく、ただただ‥ちあが出て行った玄関を眺めていた。


「あの子の側に‥居てやってくれないか」


背を向けながら発したその言葉は、きっと、シュウの今1番の願い。

でも、私が向こうへと行ったら‥シュウはーー‥


「頼む」


ゆっくりと振り向いた。
その顔は、優しく微笑んでいた。


朝陽がキラキラと舞い降りて、シュウを照らす。
まるで、シュウの代わりに泣いているみたい。


「‥んっ」


涙を零さないように必死だった。

スカートをめいっぱい握り締めて、下唇を噛み締めて、泣かないように。


「ごめんね、姫衣」


1番泣きたいのはあなたなのに。

1番辛いのはあなたなのに。


どうして?

どうしてあなたは涙を流さないの?


「姫衣、ありがとう」


ありがとうなんて、言わないで。

そんな顔、しないで。


笑わないで。
笑わないでっ
笑わないでよっ!!



シュウの顔が、滲んでしまってよく見えない。

でも、見えなくなって良かった。


あなたが笑えば笑うほど、私は悲しくなる。

その笑顔が、恐いとさえ感じるの。


そう。

シュウはこの日から、仮面を被った。

それは、可笑しな道化のように口の端を上げ、その瞳のカタチを弓形に曲げる。



全て‥ちあの為に。



闇に潜ませた紺色を
鋭く残酷に光らせてーー‥


そのピエロはまるで……

ーー‥悪魔のよう。



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