ますかれーど
渡されたネックレスをつける。

鎖骨にサラリと触れるそれは冷たくて、手袋をしているワタシはうまく金具を止められないでいた。


「なにやってんだよ」


ふわりと触れた温もり。長い指先が、アップスタイルで露わになっているワタシのうなじに触れる。


「あ、どうも」

「あぁ」


カチリと金具を止めると、その人はポッケに手を突っ込んでスッとワタシの前に来た。


「あ。良いんじゃねーの?」

「そ?」


ワタシは顔を上げた。久しぶりに見る紅茶色の瞳は、優しく優しく微笑んでいたんだ。

その人は、マスカレードに相応しい正装をしていた。

首元にはリボンタイ。
黒いタキシードが良く似合う細身の体。
足元には高そうな尖った革靴を履いている。



顔を見てしまえば、
その瞳を見てしまえば、
決意が揺らいでしまいそうな気がしていたけれど。



意外と、平気。



それだけ、今度の仮面が強いということなんだ。


「後で写真な?」

「あ、うん」


ふふっと笑うその顔、久しぶりに見た。なんでそんなに優しい瞳をするの?


「それとさーー‥、」


この人が眉間にシワを寄せ、気まずそうに何かを言いかけた時だった。


「あ‥っ、銀崎先輩」


聞き慣れない声にくるりと振り向くと、見知らぬ男の子が立っていたんだ。


「あ、あの‥」


少し後ろには、この男の子の友達らしい人達がやんやなんや言っていた。


「ぼ、僕と踊ってくださいっ!!」


大聖堂中に響き渡るんじゃないかってほどの大声を出したその男の子。


「え‥と」


誰かと踊るだなんて、全く考えていなかったワタシは、どうすれば良いのか戸惑ってしまう。


「お願いしますっ!」


直角に頭を下げながら伸ばしたその手は、すごく震えてた。



どう‥しようーー‥



「行けよ」

「え?」

「行ってこい。祭りだろ?」


そう言ってワタシの背中を押した大きな手。


「あ‥よろしく、お願いします」


ワタシは恐る恐る手を取った。するとーー‥


「ぃよっしゃぁぁーーっ!!!!!」


ダンスフロアに似合わない雄叫びは、周りの視線を集める。


「ぷっふふふっ」


思わず笑ってしまった。


「行きましょっ先輩」


流れる曲は陽気なポルカに変わっていた。

楽しもう。

せっかくの、
お祭りだからーー‥
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