ますかれーど
「はぁ、はぁ、はぁ‥はーぁ……」





ーーーーーーー‥





「‥彼、来てる?」

「あ‥衣装はなくなってたんで、来てると思うっす」


この広い大聖堂をぐるりと見渡しても、分からない。


「あいつがここに居れば、人だかりができるっす。でもそれがないから‥」

「居るなら、あそこだね」





ーーーーーーーー‥





コツ‥コツ‥コツ‥


賑やかな舞踏会の音が聞こえない。

シン‥と静まり返ったこの場所に、ワタシのヒールの音が響く。


「居るの?」


返事はない。
ただ、さわさわと枯れ葉が囁くだけ。

花壇に綺麗に咲いていたはずのコスモスも枯れ、もうすぐ、モノクロの季節がやってくる。


「居ないんだ‥」


赤いベンチに人影はない。息が切れて苦しい胸を右手で抑え、前屈みになる。


「ははっ居ないじゃん」


会いたいと求めた時には、スルリと居なくなる。
会えなくなる。

あの人も、彼も。


ゆらりと首から揺れる青い涙が、ワタシの代わりに泣いていた。


大きく息を吸って上を見ると、真っ赤に光るまんまるの満月を中心に、もう冬の星座が瞬いていた。

星がいっぱいだと、涙が出そうになるの。

この満月が欠けたらもう、1ヶ月が経つということ。


大きな空を眺めながら歩いた。

木々は葉を落とし、万華鏡みたいな天蓋がよく見える。



星が1つ、シュッと流れたような気がした。

ーー‥すると、



コケっ


「わぁっ」


敷き詰められたレンガが古いのか、はたまた雑草が強いのか。

どちらにしても、開いてしまっていたそのレンガとレンガの隙間に、ヒールが挟まったわけで。


「おっとっと」


なんとか転倒を免れたものの、片足が裸足という、なんとも可哀想なワタシ。

滑稽な自分に、笑ってしまいそうだった。


「もぅ‥」


仕方なく靴を取るために振り返る。



その時だった。



「何してんの?」


クツクツと喉を鳴らしながら近づいてくる、心地よい高めの声。



その、声の主が

灼熱の満月の光を浴びて

ーー‥顔を出す。

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