ますかれーど
「ちゃんと掴まって」

「う‥」


ふわりゆらり運ばれて、ワタシは彼の首に掴まるしかなくて。

視界は彼でいっぱいだしーー‥近い。


「ふふふ」

「何?」

「耳、似合う」

「どーも」


ぴょんぴょん揺れる、ウサギの耳が可愛かった。


「あれ、この香り‥」


あの、濃紺の香水瓶と‥おんなじ。


「ふふ」

「やっぱり‥君が」


あの箱の贈り主は、君だったんだね。

彼は、ワタシをそっと赤いベンチに降ろした。


「心太も、俺と同じ香りがする」

「え?」


その言葉の意味が解らなくって、ただ彼を見ていた。


すると彼は、ワタシの前に座り、ポッケから絆創膏を取り出して再び踵の傷に触れる。


「痛‥っ」

「痛い?でも、放っとくと更に痛くなりそうだもんね」

「なんでそんなの持ってるの?」

「こーいう場では、持ってるモンなんです。男の子は」


そう言った彼は、黒い仮面を被った紺色の大きな瞳を細めて笑う。


「そーゆーモン?」

「そーゆーモン。はい、完了」


やおら立ち上がった彼は、ワタシの右隣にゆっくりと腰を下ろす。


「ありがと」


お礼を伝えると、彼はワタシをじっと見た。

不思議な輝きの眼差しで。


「サファイア‥」


彼の瞳が映したのは、ワタシの胸元に光るネックレス。

紺色の瞳が、同色の宝石の輝きを捕らえる。


「ということは、俺の香水瓶を開けたんだね。嬉しいよ」


ーーー‥え?


「紅か‥紺か」


何?どういうこと?
ワタシーー‥


「はは。正直、恐かったんだ」


ーー‥開けてない。


「今日、会いに来てくれて‥嬉しかった」


どちらも開けてない……

だって、このネックレスはーー‥っ


「試すような真似して、ごめんね」



灼熱の光が見てる。
サラリと風が流れても、覆い隠れることのない

ーー‥満月。

その色は、紅く紅く。



「ルビーじゃなくて、サファイアをつけてるってことは‥」


彼の細い指が頬に触れる。ーー‥冷たい。


「もう1度、俺のモノになるってこと‥だよね?」


光を溜め込んで逃がさない、青の世界で最も深い色。


「ーー‥心」


ワタシの蒼は


「好きだ‥」


カンタンに飲まれてしまう。

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