ますかれーど
決めたんでしょう?
裏切らないって。

紺色に飲まれる覚悟をーー‥決めたんでしょう?

ワタシはアナタが好き。

ワタシは、アナタが‥好き。


ワタシは‥

ワタシはーー‥




ーーーーー‥



暖かかった風は、やっぱり秋の風だった。

陽の光を失えば、ひんやりと冷たく肌を撫でて体温を奪いゆく。


乾いた空に楽しそうに瞬く星たちは、万華鏡のようにキラキラと揺れて‥

それらを統べるは、紅くハロウィンを祝う満月。


不思議な夜だった。


此処に居る人たちは皆、思い思いの仮面を被っている。


溢れる仮面。


その人ごみの中で、
ワタシが取ったのはーー‥



「ん。ワタシも、君が好き‥」



ーーアナタの手でした。



「心‥」



冷たい指先は私の頬から滑り下りて唇をなぞる。


彼の顔が少しずつ近づいてきて、キス‥されるんだと思った。


鼻と鼻が微かに触れる。
彼の香りがワタシを包む。


ワタシはいつの間にか目を閉じていた。

流れに身を任せ、これで仮面に隠した全てを闇に葬るコトができる。


それが、最善の選択。


コツン‥

ぶつかったのは、おでことおでこ。


そっと目を開けると、紺色の大きな瞳がゆらゆらしながらワタシを見ていた。

それは、憂いの色‥?



「キス‥してほしい?」



そう問うた彼の眼差しには、ハッキリと憂いの感情が読み取れる。



「うん」



すると、ニヤリと上がった口の端。



「じゃ、心からして?」



そう可愛く笑ったウサギは、ゆっくりと目を閉じた。



「え‥っと」

「早くっ」



そっと‥そっと‥

ワタシは、ちゅっと触れるだけのキスをした。



「もっと」



今度は、唇の温度を感じるくらいのキス。



「もっと。心‥」



いつの間にか後頭部と腰を押さえられて

だんだんと長く深くなってゆくキスに

全てが痺れていった。



このまま全部を奪って。

アナタのモノにして。

不安なんて払拭して。



誰かが窓を開けたんだろうか。

静寂が支配していたこの中庭に、微かなメロディーが流れだす。



それは、ラ・ヴァルス。

崩れゆくワルツは、まるで笑っているみたい。

踊り狂う仮面たちは、知っているのだろうか。


月があんなにも‥

燃えているということを。
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