ますかれーど
紅く燃える月が西の空へ堕ちようとしている。

それは、紺色の空一色になるということ。

空全体を飲み込んだ闇は、混沌の仮面に反映されて、ワタシをその腕の中へと誘う。



ウサギの時計がカチコチと時を刻む度、ワタシのナカの“私”は輝きを失ってゆくの。


ワタシは“ワタシ”を確立していく。

ーー‥仮面を被ることで。






だからもう、

“私”を見つけないで。


ワルツが

終わるからーーー‥






ーーーーーー‥






「うわっ」



くるくると踊っていた中で、いきなりガシッと腰を掴まれこけそうになった。



「あ、ごめん」



クスクスと喉を揺らしながら笑うその顔は、丁度照明の影になってしまっていて暗い。



「どうしたの?」



フロアのど真ん中で止まってしまったワタシたち。

周りはうまくよけながら踊っているけれど、流れの中で止まっているのはかなり気まずい。



「ここなら、よく見えるから」

「何が?」



ニッコリと笑った彼は、何も答えてくれなかった。



「ねえ、心太?」



腰を更に強く抱き寄せられ、左手が仮面に覆われていない方の目元に触れる。



「俺のコト、好き?」



触れた細い指先の、なんて冷たいことだろう。



「ん。好きだよ?」



周りは煌びやかにくるくるグルグルと回って、仮面の歌声が木霊する。



「はは。そっか」

「何で‥っ」

「ん?」



何デソンナニ‥

悲シイ笑顔ナノ?



「心‥」



触れられた目元のパリッとした感覚ーー‥

涙の、跡?








「ーー‥嘘つき」








前より少し大きな身体でワタシを抱きしめ、

前より少し高い所から、

前より少し‥低い声で



アナタはワタシを

“嘘つき”だと‥

そう耳元で囁いた。



周りで流れる仮面の歌声など、もう‥聞こえてはこない。






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