ますかれーど
--千秋side--
今日はとても暖かかったはずなのに、やっぱり秋の風は冷たくて。
開け放たれた大聖堂の窓からは、紅く燃える満月がこちらを見ていた。
西に堕ちようとしているその紺と蒼の狭間で、そっと‥こちらを見ていたんだ。
前が滲んで見えなくて。
でもそれでも、俺は笑ってキミの背中を押した。
「ありがとう」
お礼なんか、
言わないでよ。
溢れてしまうだろ‥?
溢れて、壊れて、キミを奪い去ってしまいたくなるから。
だからどうか、振り返らないで。
「それと、」
「ん?」
唇を噛み締めて、
歯をきつく閉じて。
「‥ごめんなさい」
堪えることなんて出来なかった。
ポロポロと流れ出すそれは、キミへの想いも流してくれるだろうか。
「‥ん」
一歩、また一歩とあの人の元へ進み出すキミ。
それは、
一歩、また一歩と俺から離れていくということ。
元々、俺の一方的な恋心だった。
キミが本当は誰を見ているのかなんて、最初から分かっていたんだ。
でも、無理矢理にでも奪ってしまえば、俺を見てくれると思ってた。
好きになってくれるって‥思ってた。
俺を好きになろうとしてくれる優しさ、
“俺”を見抜く吸い込まれそうな蒼い瞳。
ーー‥大好きだった。
ありがとう。
流れて行くんだ。
ーー‥時って。
同じように、ココロも流れてしまえば良い。
そう‥思ってた。
でもーー‥
キミと、出逢えて良かった。
キミと、同じ時を過ごせて良かった。
いつかまた、腹を抱えて笑いながら話すことが出来るかな?
もしも次に会うことがあったならば、
今度は
本当の笑った顔‥
ーー‥見せてねっ。
ね?
心太っ♪
キミには
光(えがお)が良く似合う。