ますかれーど
「何があった?」



びくっ

低い声が、私の頭を現実へと引き戻す。



「え?なん‥で?」



私の部屋のドアに腕を組んで寄りかかっているヤツは、少し不機嫌オーラを漂わせている。



「レイから連絡なかったか?」



うちの鍵をその長い指でくるくる回しながら、一歩ずつ近づいてくる玄。



「か‥勝手に入って来ないでよ」

「チャイムもノックもしたよ。反応なしだったけど?」



えと‥なんか、怒ってる?



「具合は?」

「あ‥別に。ただ、寝坊しただけだよ」

「ふーん‥」



あー‥納得していないですよーって感じの顔ですね、それ。



「お前‥」



玄は、ベッドに座ってる私の横に乱暴に腰を下ろした。



「なんか、あっただろ?」



真っ直ぐなその瞳。

いつも“私”を映してくれるその紅茶色の瞳には、嘘は‥つけない。



「ーー‥なんか、あった‥よ?」

「何が?」



まるで、私がそう答える事がわかってたかのように。

間髪入れずに質問を続ける玄。



「え‥と玄?なんか怒ってる?」

「‥別に?」



ピリピリした雰囲気に、低い声。

絶対なんか怒ってるのに。



「言いたくねーなら良いけどっ」



私に背中を向けて立ち上がった玄は、ポッケに手を突っ込みながら歩いてく。



「メシ、ダイニングに置いてあっから」



「じゃな」って言いながら出て行く玄。


私に、顔を向けなかった。

私を、怒らせなかった。



なんかあったのは‥玄の方じゃないの?




傾いた太陽は、だんだんと茜色を帯びて

私の部屋を闇へと導く。



闇の中に隠れた

ワタシのココロ。



あなたは

ワタシを

見つけてくれる‥?




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