ますかれーど
好きだと自覚したあの時がスタート地点。

よーい、どんって走り出したお前への気持ちは、どんどんどんどん膨らんでいった。


でも、お前は違う男の手をとったんだ。


時期が悪かったのか、それともこれが“遅すぎた自覚”への代償なのか。

抱く強い想いは焦げついて、憎しみにまでなった。


走れば走るほど、お前は遠くなっていく。



だから、先回りしようとしたんだ。

先回りして“兄貴”の身分ならば、俺はお前の側に居ることができる。


オンナとして愛してるという感情を、妹として愛してるにすり変えて‥





『それでも、玄が好き』





真っ直ぐだった。

吸い込まれそうなあの蒼い瞳に宿った、淡く切ない光。


涙を必死にこらえて、スカートなんかぐちゃぐちゃに握ってさ。



俺‥何も言うこと出来なかったんだ。



ーー‥お前をそんな顔にさせてるのは、俺か?


俺、お前を笑顔にしてやる自信‥ねぇよ。


こんなにずっと一緒に過ごしてきたのに、俺は、お前の笑顔を取り戻すことが出来なかった。

それどころかーー‥





なぁ、

俺はどうすれば良い?








ーーーーーーーー‥







『くろと?』


っく、ひ‥っく


『どうしたの?』


‥んでもねぇよ。


『ないてる‥?』


どっか行けっボケナス!



あの時お前は、冷たく突き放した俺の背中に、自分の背中をぴったりとつけて、待っていてくれたんだ。


ーー‥俺が、泣き止むのを。


ただ黙ってくっついてるその小さな小さな背中は、一人前に温かくって。

俺は、いつまでも泣いてた気がする。



俺、お前に助けられてばっかりで‥情けねぇ。


お前が光(えがお)を見せてくれるようになるには、どうしたら良いんだ。





ーーーーーーーー‥






「わかんねぇ」



そう言いながら、グラスに残ってた酒を一気に飲み干したその時だった。

バァーンっ!!


ものすごい勢いで店の扉が開き、ドアベルが吹っ飛ぶくらいにカランカランと鳴り響いた。


ビクゥッとなりながらも、その音の方へ顔を向ければーー‥



「あーにーきー‥」



鬼が‥立っていた。


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