ますかれーど
レイがこんな風に泣くなんて‥。16年も兄貴やってきて、初めて知った。


目の前のグラスの氷はもう形をなくし始め、カランと音を立てて体制を変える。

滑る水滴をなぞりながら、俺の頭を支配するのはあいつのこと。



「でも俺、あいつの為に何もできねぇし‥」



無力を呪う。
何かが出来る奴を羨む。

あいつを光へと導けるのは、俺じゃない‥。











「イイんじゃない?何もできなくったってさ」



カウンターに頬杖をついたみー姉は、ふわりと優しく微笑んだ。



「そんなバカヘタレハゲを、心は選んだんでしょ?好きだって言ったんでしょ?」



言ってることはグサグサ刺さるけど。



「そーだよハゲ!あたし達には無利益かもしれないけど、心は何かを受け取ったんじゃないの!?だから惹かれたんじゃないのっ?」



兄貴の威厳なんて、本当に皆無だけど。



「何も出来ないって決めつける前に、聞いてみたら?あの子にさ」







砕いて散らしてパンドラへと葬った俺のココロ。

固く堅く封をして、押さえつけた。


その想いはどんどんどんどん膨らんで、フタを押し開けようとしたけれど。

俺は更に抑え込んだ。



やがて想いは焦げついて、もう決して爆ぜることはないと思っていたんだけどーー‥







「レイ‥あいつ、何処に居る?」



立ち上がってみるのも良いのかもしれない。



「兄貴‥」



立ち上がって、前を見て、歩いて。



「いつものとこに居るよ」



ココロは雨降り。
まるで泣いているように前が見えないけれど。



「行ってこい、クロ」



お前はまた、俺が泣き止むのを待っていてくれるだろうか。



「行ってくる」



もう一度‥
もう一度、言ってくれ。

そしたら俺も、素直になれる気がするから。



「あ、それと」



今度こそーー‥



「俺はバカでもヘタレでもハゲでもねぇっ!!」



ーー‥お前を掴まえる。





< 197 / 207 >

この作品をシェア

pagetop