ますかれーど
「「ただいまー‥」」
帰った紅澤家には誰も居なくて、どっちが先にお風呂に入るかでケンカが始まった。
「俺のがちったぁ頑丈なんだからお前が先に入れよっ」
「私は貸してくれたジャケット羽織ってたから大丈夫だって言ったじゃんっ。薄着の玄が先入りなよ!!」
「お前‥っ」
いきなり言い返しの勢いが止まった玄に、私は少したじろぐ。
「はぁー‥」
大きく分かりやすくため息をついた玄に、ピキッとした。
「何よっ」
「‥見えてんだよ」
「はっ?」
「透けて見えんだよっ」
その言葉に、自分の身体を見下ろしてみれば‥
「ーー‥っ!!」
丸見えになっていた上下を、必死で隠す。顔から火が出そうとは、まさにこのこと。
「はぁーー‥」
「な‥何よ」
またしてもため息をつきやがったこいつに、涙が出そうになった。
せっかく両想いになれたのに、こんなくだらないことでケンカして、挙げ句の果てには女の子として最低の醜態を晒す。
「あのさー‥」
雨に濡れた髪を後ろへと梳きながら、夜明けを映す大きな窓ガラスに顔を向けたこいつ。
キラキラした水の粒が、とても綺麗だった。
「俺も一応、オトコなんだけど?」
「は?」
すると突然こいつは、高い身長をかがめて私のお腹にタックルしてきた。
「わっ」
痛くはなかった。なかったんだけどーー‥
「おーろーしーてー」
「ヤダ」
肩に荷物みたいに担がれた私。
「風呂、行くぞ」
「え゛‥もしかして」
「一緒に入る」
「や‥やだーっ離してー降ろしてー」
「うっせ。黙れボケナス」
ジタバタ暴れても逃げられない。
私を押さえる強い力。
私なんかを軽々と持ち上げる力。
オトコ?
玄がオトコ?
そんなこと、あんまり考えたことなかった。
玄の背中でゆらゆらしながら、この背中の持ち主を逆さまに見上げてみる。
朝陽の所為かな?
耳が、真っ赤だった。
ドキドキが早い。
背中越しに聞こえる玄のドキドキも、同じ速さだ。
「ふふっ」
「なに笑ってんだよ」
「何でもないっ♪」
「お前‥余裕だな」
今‥解った。
麗花と玄は、間違いなく兄妹だ。
ニヤリと片方の唇を上げながら浮かべる、
紫色の……笑顔。