ますかれーど
--玄side--
蒼さんと魅さんから連絡があったんだ。
夕暮れから出かけたきり、0時を過ぎても帰って来ないって。
心配してたんだ。
アイツには全然 伝わってねぇのな。
あの人たちがどんなにお前を大事に想ってるかって事。
居る場所はわかってる。
俺がこの高校に在学してた時から、此処はアイツの現実逃避の場所。
ほら、居た。
たった独りで赤いベンチに座り、ただボケーっと揺れる花壇を眺めてるコイツ。
「心‥やっぱり此処に居たか」
するとコイツは俺の名前を呼び、胸に突っ込んできた。
ーー‥らしくない。
どうした?心‥
この間から明らかに様子がおかしい。
俺から抱きしめることはあっても、こんな風に自分から抱きつくような事はなかった。
それも、強く強く‥
こんな時にあれなんだけど、なんつーか‥こうーー‥
ーー‥嬉しかった。
だからこそ、離れて欲しかった。
俺が、俺でいられなくなりそうな気がしたんだ。
なんだ‥?
ーーこの感じ。
結局、お姫さま抱っこしたまま銀崎家に帰った。
はぁ。コイツ、途中で寝やがるから‥。
「ありがとな、クロ」
「玄くん、ごめんなさいね?」
「いや、大丈夫っす」
心の両親に、心の安心しきった寝顔を見せると、2人とも瞳を細めて優しく笑った。
なぁ、心?
この笑顔をお前に見せてやりたいよ‥。
そのまま心を2階の部屋まで運び、ベッドに寝かせた。
「う‥んーーくろ‥と」
「なんだ?可愛い顔で寝やがって‥」
さらりと顔にかかった髪を、そっと耳にかけてやる。
その時ーー‥
「な‥んだ?これ」
心の左首筋には、
強く噛まれたような歯型とーー‥
「キスマーク‥?」
どういうことだ?
誰につけられた?
コイツ‥男ができたのか?
いや、レイはなにも言ってなかった。
じゃあ誰が?
答えの出ない自問。
聞きたいことがたくさんある。
でも、今 無理やりコイツを起こして聞いたところで、
コイツを追い詰めるような聞き方しかできないだろう。
それくらい、俺の中がおかしくなっていた。
何故かフツフツと煮えるような想いが、俺を支配し始める。