ますかれーど
「聞いてる?」



はっ!!
だめだめだめだめ!

飲まれちゃダメ!


ほら、笑って?


ーー私は、ニッコリと微笑みを返し、



「何かご用?どこかでお逢いしたことありましたっけ?」



と、シラを切った。

関わっちゃダメ。
知っちゃダメ。


気をつけなきゃ‥ダメ。



すると彼の顔からは笑顔が消え、その眼差しは背筋が凍るほど冷たくなった。


ゾクリとまたココロを掴まれてしまった私は、動く事ができない。



「‥こんなんで隠したって無駄」



女の子みたいに細い指先。

それが私の髪から頬を伝い、首筋へと降りてくる。



ぺりっ



「ーー‥っっ」

「ふーん。まだはっきり残ってるんだね」



湿布を剥がして、見られたくない“それ”を露わにした彼は、その紺色の瞳を満足げに細める。


窓際の左首筋にふわりと風が当たり、スーッとした涼しさを感じた。



「“俺のモノだ”っていうしるしなんだってば。隠しちゃダメだよ?」



妖しく美しくクスクスと笑う彼。



「わ、わたし‥は」

「ん?」

「ーー‥ゃない」



ココで言わなきゃ。
言わなきゃ、私はこの先もこの人に支配されてしまう。

言わなきゃっ

言わなきゃっ!!


私は彼を睨みつけ、ガッと勢い良く立ち上がった。



「私はあんたのモノじゃっーー‥んっ」








ーーーーー‥え?







キャァァァァァァァァァーーーッッ!!!!!!!!!!







女の子の耳を引き裂くような悲鳴と、
何故か若干の男の子のうなだれる声が
この教室と廊下を支配した。





「な‥に?」



気が付けば、文句を言うために立ち上がった私の顔の前には

鼻と鼻が触れるほど近くにある、彼の綺麗な顔。


え?え?


意味がわからなくて
理解ができなくって


ただただ彼を見つめたまま、瞳だけが右往左往する私。



「何?もっとして欲しいの?」



口の片端だけを上げて、ニヤリと意地悪く笑う彼。







私‥





わたし‥





ワタシ‥






ナニガオコッタノ?






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