ますかれーど
その瞳を見るだけでゾクゾクする。

その声を聞いただけで身体の芯が震える。

その唇の感触を思い出すだけで‥熱くなる。



「あん‥たーーっ」



定まらない焦点を無理やり合わせ、彼を睨みつける。



「あんたじゃない。俺の名前は、千秋(チアキ)」

「は?」

「名前で呼んで欲しいな♪」



さっきとは打って変わって、可愛く無邪気に笑う彼。

私の怒りは、うまいこと逸らされた感じだ。



「‥いや」

「呼んで?」

「やだ」

「呼んでよ」

「絶対に呼ばない」



私が力いっぱい拒否すると、彼のオーラがだんだんとダークになっていく。



「ふーん‥じゃぁ、俺の名前を呼ぶまで何して遊ぶ?」



ゾクッ


顎を引き寄せながら、親指で私の唇をなぞるその行為でさえ

私の身体の芯はゾクゾクと震えを覚えるんだ。



また……紺色の闇に飲まれるーー‥





ーーーーーーーー‥





「心っ!!」



つかつかつかつかと早足で近づいてきた彼女は、ガシッと私を横から抱き締め、その光を湛える紅茶色の瞳を鋭く彼へと突き刺した。






「んー‥じゃぁ、またね?銀崎先輩♪」






彼女と一瞬の火花を交わし、

無邪気な方の笑顔を残して、ギャラリーごと去っていく彼。


彼が去った後、
クラスメートや廊下に残った少しのギャラリーから好奇の目を向けられていたけどーー‥


そんなこと、気にしている余裕なんてなかった。



頭の中で考えることが多すぎて、オーバーヒートしそう。


そうして未だに混乱している私を、麗花は包むように抱き締め、そっと頭を撫でていてくれたんだ。



ねぇ‥あんたは、何がしたいの?


何で私に構うの?





これで、私の守ってきた仮面は砕かれた。

また‥


探さなくてはならない。



“私”を守る仮面を

ーー‥探さなきゃ。




蒼い蒼い空に浮かぶは、気持ち悪いくらいのウロコ雲。

近い内に、嵐になりそうな予感がする。







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