ますかれーど
関係ない人まで去り、この教室には3人しかいなくなった。

さっきまでの騒がしさが嘘のように静かだーー‥



「立てる?心‥」

「うん」



私はニッコリ笑って頷き、やおら立ち上がった。


心配で揺れている、麗花の大きな紅茶色の瞳。

「大丈夫だよ」っていくら笑顔で言ったって、麗花はきっと‥いや更に、この瞳を揺らすことだろう。



「銀崎 心‥」



珍しいなぁ。この人が、おちゃらけでもなく真剣でもなく、こんなに優しい顔をするなんて。



「ヘーキだよ」



私はまた、笑って見せた。

口の中は血の味でいっぱいで、若干‥いやかなり痛かったけど、笑うことくらい出来る。



「無理はするなよ?何かあったら、俺様に言え」


俺様?

ーー‥何様?

この人、昔は結構かっこよかったのかも。それを、今でも引きずってるのかも‥なんて。



「あ?なんだ?俺様はカッコ良いんだぞぅ♪」



おちゃらけに戻ったおやじ。お前はエスパーかっ!!



「ぷっ‥ははははははははーー心は顔に出過ぎっーー‥」

「あっはっはーっ♪さすがは黒姫(クロキ)の娘だっ」



あー‥黒姫ってのは、お母さんの旧姓。

なんか‥2人とも楽しそうだから、いっか。



「おぅ、銀崎」



また少しシリアスな、元二枚目の顔に戻ったおやじ。



「なに?」

「生徒会の仕事は、少し休め」



意味が‥わからなかった。

この人の言うことは、いつも意味がわからない。


ーー‥違う。

私が意味を読み取れないだけ‥なのかもしれない。



「そうだね‥。今、会長と一緒に居たらヤバいかも」



麗花まで。



「なんで?」



麗花が言うんだから、それなりの理由があるんだと思う。


するとーー‥



「それはね?」



廊下側で聞こえた、おとなしめの声。

3人だけだったはずの空間に響いたその声に、バッと視線を向ける私たち。


そこに立って居たのは、妖艶な光を放つ切れ長の紺色の瞳。



「会長!」

「やぁ」



なんか陽気に教室内に入ってきた会長を見て思った。


その妖艶オーラ。

その女の子みたいに綺麗な顔立ち。

そして、その紺色の瞳ーー‥



似てる‥よね?


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