ますかれーど
いつもなら夕焼けが見えるこの時間。

今日は厚くて重い、灰色の雲が蒼い空にフタをしてる。


耳が痛い‥。
雨が降りそうだ。


お父さんもお母さんも、今 紅澤家にいるらしい。

だから、麗花と一緒に学校のほぼ隣の家へと帰った。

この広い庭の壁に穴を開ければ‥徒歩3分で登下校できるのにね?


開けたら怒られるかな‥?



ガチャ‥キィィー‥



「「ただいまー」」



金の取っ手の付いた茶色い扉を開けて、2人で声を揃えてご挨拶。



「心っ!!」



1番に駆け寄ってきて、私の身体をペタペタ触るのはーー‥



「玄‥セクハラはやめてください」



つめたーい目でそう言ってやると、



「だってお前、怪我したんだろ?大丈夫なのか!?」



え?何で知って‥


ーー‥あ~ぁ。



「麗花ちゃぁん?」

「なぁに?心ちゃん」



2人して気持ち悪いくらいの笑顔で「ふふふふふふふふふ‥」と笑う。


ちょっと深いかもだけど、外からは見えない口の中だったから‥心配かけないように黙ってようと思ってた。



「結構、兄貴も心配してたんだよ?」



今度は、その綺麗な顔に綺麗な微笑を浮かべて見せた麗花。

心配‥ね。



「で?怪我は大丈夫なのか?」



私の肩を掴んで、ゆさゆさ揺らす玄は真剣そのもの。

でも、もし外傷があったらそれ痛いと思うよ?



「あー‥大丈夫。口の中をちょっと切っただけだから」

「そか。たいしたことないなら、良かった」



玄はやっと、安心したようにふわっと笑った。つられて私も笑顔になる。

すると玄は、はっとしたように瞳を丸くして‥



「おま‥っ」

「見せてみろ」



玄の言葉を遮るように響いた、すごくすごく低い声。



「だ‥大丈夫です」



かなり背の高いお父さんを見上げて、なんとか距離をとろうとする私。



「口、開けろ」



少し怒ったように見える、私と同じ蒼い瞳。私は、渋々口を開けた。


お父さんは、私の口の中をぐるっと見ると、手に持っていた白いお道具箱みたいな箱の中からガーゼを取り出し、私の口に突っ込んだ。



「ふぐっ‥」

「血が止まるまでくわえてろ」



そう言って背を向けたお父さんは、きっと‥お母さんや拓弥さん達が居るであろう部屋へ向かって歩いていった。

おとう‥さん?
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