ますかれーど
「あ、そういえばよぅ?」



麗花をうまく去なすとこなんか、すごくうまいんだな。このおやじ。



「銀崎?聞いてっか?」

「ん?あぁ聞いてるよ」



私に話しかけてたのか。展開についていけなかったよ。



「銀崎、もうすぐまたツアーだとよ」



今の“銀崎”は、お父さんのこと。



「ーー‥そか」



私にはどうでも良い情報。お父さんは昔から家にいないから。

帰ってきてる今の方が珍しいんだよね。


お父さんが長く家を空ける時、可愛い顔をめいっぱいの笑い顔にして『いってらっしゃい』って見送るお母さん。

あの人が大黒柱だってわかってる。あの人が働かなければ、私たちは生きることが出来ないことくらいわかってる。


でもーー‥


『いってらっしゃい』の後のお母さんの背中を、ずっとずっと見てきたから。

私は、余計にあの人のことが嫌いなんだと思う。


それに、

寂しいなら寂しいって、辛いなら辛いって言えば良いのに。

私でも役に立つ事があるかもしれないのに。

無理して私の前で笑おうとする、頑張ろうとするお母さんも、嫌いだった。



「‥心」



さっきのどす黒いオーラから一転、悲しそうな顔つきで私を覗き込む麗花。



「ん?大丈夫だよ。さ、仕事しちゃおう?」

「そだね。全く終わらなそうだけど」

「今日中に終わらせてくれな♪」

「「無理っ!!」」



笑顔で1人だけコーヒーなんかすすってるおやじをチョップでツッコミながら、カタカタと仕事をしていく私たち。


どんよりとした低い灰色の空はその重みに耐えられず、ついに泣き始めた。



「あー‥降ってきちゃった」

「麗花、傘もってる?」

「持ってないわ」



雨はボタボタと激しさを増し、風はビュービューと木を揺らした。



「おぉ♪台風みたいだな」



のんきに窓を見ながら楽しそうなおやじ。



「しょーがねぇ。お前らこれ以上ひどくなる前に帰れ~」



とのお言葉に、早速カバンを持って立ち上がった私たち。



「おぉ!帰る気満々だな」

「「もっちろん」」



バイバーイとおやじを1人残して、玄関で靴を履き、外を見る。



「んぁー‥これじゃ、傘あっても意味なさそうだよねぇ」

「ってかないしね。麗花ん家まで走る?」

「んーだねぇ。びしょ濡れ覚悟でっ」



ほっ!
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