ますかれーど
角度を変える度に、頬を撫でるまつげがくすぐったい。

彼が濡れている所為なのか、静かな夜にぴちゃぴちゃと水音が響いてる……


頭の中がだんだんと真っ白になって、痺れていくみたいだった。


気持ち‥いいーー‥



「ちゃんと受け入れるようになったね」



唇と唇が触れる位の距離で、彼のその紺色の瞳が妖しく光って笑ってる。



「ーー‥え?」

「キス。気持ち良かった?」



クスクスと笑う彼に、はっ!と我に返った私。



「な‥に、すんのよ」



抵抗は試みたけれど、彼の紺色の瞳は、私の蒼い瞳をすぅっと飲み込むんだ。


ーーー‥動けない。


さらりと駆け抜けた、少し肌寒いくらいの雨上がりの風。

この紺一色の世界で動いているのは、きっと彼と風だけ‥だと思う。


風の所為でさらっと顔にかかった私の髪を、その細い指で梳くように耳にかける彼。


ゾクッ



「ひぁっ」



身体の真ん中がゾクッと震えて、ヘンな感覚と一緒にヘンな声が出た。



「ふーん。左耳、弱いんだ?」



彼はそう言うなり、私の左耳に唇を寄せてツゥー‥っと撫でていく。

その度に出そうになるヘンな声を押し込めて、口を閉ざすけど‥身体の中のゾクゾクは大きくなる一方でーー‥



「ねぇ、」



鼓膜に直接響く、彼の高めの声。



「俺のモノになって?」



艶美なその声は、いつもの余裕綽々な感じではなくて。

なんとなく‥悲しそうな、必死な感じがしたんだ。



「俺だけのモノに‥」



私を抱きしめる彼の腕が、ぎゅぅっと強く強くなる。


何をそんなに恐がってるの?

何でそんなに必死に言うの?

何故‥ワタシなの?


浮かんでは消えてゆく、音に乗せられない言葉たち。


彼の冷たい身体は、カタカタと震えている。

私は、彼の背中に腕を回してきゅっと力を入れた。


そして‥



「ーー‥うん」



私は、肯定の言葉を口にした。



この人のこと、何も知らないけれど。

まだ、逢って数日だけれど。



私と、ワタシの周りを確実に変えた彼。

私のココロの中で、確実に大きくなっている。


気が付くと、彼の事を考えてるの。




これはーー‥恋?



わからない。


でも、

一緒に居たいと

側に居たいと



そう‥想ったの。

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