ますかれーど
「心太がさ、」



どれくらい経ったろう。太陽は真っ赤になりながら、もっともっと熱を持って傾いてゆく。



「蒼さんが昔から言ってた通りの子で良かった‥」

「え?」

「ずっと昔から、可愛くて自慢の娘の話を俺にしてたから」



お父さんが?
ってか、昔から‥?



「えと‥やっぱり、お父さんと知り合いなの?」

「何も、聞いてない?」



抱きしめる腕を放して向かい合った私たち。

私は、コクンと静かに頷いた。



「蒼さんは、うちの母さんの会社の歌手だよ?」



ーーーー‥ぇ



「えーーーっ!!」



本気で驚いてる私を見て、クスクスと肩を揺らす彼。



「うそっ!?」

「ほんと♪」

「いつから!?」

「最初から♪」



初めて知った‥。

そうか。だからお互いに知ってるような雰囲気だったんだ。


知らなかったのは、私だけ‥か?



「知らなかったのは心太だけだと思うよ?」



あぁ‥ですよね。

それよりも、紺野くんのお家ってスゴイのかな。って方が気になるわけで。





「蒼さんってさ、俺のことを、ちゃんと“俺”として見てくれるんだ」



そう言った彼は、どこか寂しそうで‥



「心太の父親は蒼さんでイイなぁ‥」



悲しそうな色を浮かべる。



「そんな蒼さんが可愛がってる娘にさ、いつか‥逢いたいと思ってたんだ」



木陰の風が、2人を撫でては通り過ぎてゆくーー‥



「あの時‥初めて逢ったあの夜、その蒼い瞳を見て“あぁ、この子だ”って思った」





ーーー‥あ。






『ふーん。キレイな瞳の色、してんね』






私を見つめる悲しみを帯びた紺色の瞳。

その深い闇に、私の蒼は簡単に飲み込まれてく。



「心‥」



あのね。
名前を呼ばれると、お腹の奥がきゅぅんってなるの。






「好きだよ‥」





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