ますかれーど
「心‥しん‥っ」



私に背を向けたまま、向こうのベッドサイドから下りようとした彼はーー‥


ズルっ

ゴンッッ


ーー派手にコケた。



「いーっ!!」



こんなに慌ててる彼を見たことがなくて、なんだか可愛くて、ついクスクスと笑いがこらえきれなくなったんだ。

すると、落ちた先からひょっこり顔を出した彼は



「しーんーっ!」



ちょっとだけ、むすっとふてくされ気味だった。



「あはは。ごめんね?なんか可愛くって」

「ひどいよー‥」

「ふふふ。大丈夫?怪我ない?」



すると彼は、ベッドに顎を乗せて唇を指差した。



「切った」

「ん?」

「唇。切ったから、治して」



そう楽しそうに言う彼に、私の顔が真っ赤になってくのが分かる。



「な‥治すなんて、出来ませんっ」

「舐めてくれれば治るよ?」



飄々と悪戯っぽく笑うその顔が

可愛くて。

妖しくて‥



「うぅ」

「早くっ」



私は吸い込まれるようにベッドに足を乗せ、ソロリソロリと近づいた。



「心‥」



いつもより低く私を呼ぶその声に、お腹が反応して苦しい。



「早く‥」



暗がりでキラリと見えた、濡れた紺色の瞳。


ほらまた‥

ーー飲み込まれてく。


ゆっくりと顔を近づけ、「どこ?」と問う。するとーー‥



「こーこっ」



ちゅっ



「ーーっ!!」

「あははっ。ごめん、我慢できなかった」



顔から火が出るくらい‥ってこのことを言うのかな。

すごく、すっごく
顔が‥耳まで熱い。

じんじんと痺れてるその耳に、彼の指がそっと触れる。



「心?もしかして、赤くなってる?」



夜空が照らせど、暗くて見えないはずなのに‥どうして分かったんだろう。



「かーわいっ」



苦しいくらいにぎゅーっと抱きしめる彼。

うずめた彼の胸に、またお腹が反応する。苦しい。

ーーー‥嬉しい。




コンコンッ


その時、この部屋の扉を強くノックする音が聞こえた。


コンコンコンッ!


動こうとしない彼。


ドンドンドンドンッ



「ね、ねぇ‥」

「ん?」

「出なくて良いの?」

「ん。鍵かかってるし」



カシャ‥カシャカシャ



「‥何の音?」

「はぁーー‥」



カシャカシャ‥

カチャンっ!
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