ますかれーど
キィィーー‥


若干建て付けの悪そうな、いや古いからかな?そんな音で片側の扉が開いてく。

暗闇に目が慣れていた所為か、そこから溢れてくる光が眩しい。

逆光で黒いシルエットになって見えたその人。


身長は私より低いか同じくらい。

耳の下で2つに結んだその髪は、くりんくりんと巻かれているのが分かる。


可愛い感じの女の子。きっと、さっきの子だーー‥



「ちあ‥」



ほらね。



「鍵、かけてあっただろ?」



恐ろしいほど低い声。

今までの可愛い感じなんて一切なく、冷たく豹変した彼に身震いがする。



「開いた‥」

「ピッキングはやめろって言わなかったか?」



ピッキングってあんた‥。



「だって、ノックしても出てきてくれなかったもん」

「……」

「だって、こうでもしないと会ってくれないもん!」

「……」

「だって、ちあに会いたかったんだもんっ!!」

「はぁーー‥」



大きくため息をついた彼は、ベッドサイドの電話へと手を伸ばし、何かを告げた。

コンコン



「「失礼いたします」」



電話を切ってからすぐに部屋へと現れたのは、あのカッコいいお姉さんと、スキンヘッドのおじさんだった。



「よろしく」

「「かしこまりました」」



2人は、彼女の両腕を片方ずつ固定し、ずるずると引きずっていく。



「ま、待ってよっちあ!なんで?なんで話してくれないのっ!?」

「話すことなんてない」

「その女!?その女なのねっ!?ねぇ!答えてよ!ちあっ!!」



すがるような女の子のその声に、彼は低く「あぁ」と一言だけ返事をし、私の顔を胸に押し付けた。



「ゆ‥るさない。許さないんだからっ!!
あんたみたいなのがちあの隣に居るなんて‥っ、

絶対に‥許さない」



彼女を見なくても、私を充分に貫くその視線。

それに、低く、脅すようなその声。



「「姫衣(キイ)様っ」」



確実に私に向けられている、恐ろしい程に剥き出しにされた敵意。

身体が、カタカタと小刻みに震えていくのが分かった。



「ちょっ!離しなさいよぉっ!!」



キンキンした高い声が部屋を出て行く。


パタンと扉が閉まり、戻ってきた静寂。

彼の腕が更にきゅっと強くなって、震える私を包み込む。


暗闇が、一層深くなっている気がした。
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