ますかれーど

--心side--




眩しい光でふっと目を覚ますと、この広いベッドに独りきりだった。



「紺野‥くん?」



部屋をキョロキョロと見回すけれど、彼は居ない。


私、いつの間に寝ちゃったんだろう。


まだ耳に残る彼の声。

『俺のコト、好き?』



ーー‥応えられなかった。



好き?嫌い?
それは好きだよ?


でも、彼が求めてるのは、その“好き”じゃないんだよね?



愛おしいと思う。
触れていたいと思う。

唇を重ねる度に身体の中が熱く反応して、苦しくなる。




ーー‥好き。




でもね、口に出すことができないの。



ココロの中がどこかもやもやとして、

言葉になって出てこない。


なんで?

わからないーー‥




待たせてごめんね。

でも、どうか待っていて欲しい。


だんだんと、あなたのことを好きになっていくのが分かるから。

口に出せるその日までーーどうか、その無邪気な顔を私に向けて、

『心太っ』って笑っていて欲しいんだ。




わがままで、ごめんね。




コンコン、ガチャ‥



「あ、お目覚めでございましたか」



片側の扉が開いて入ってきたのは、朝に映える爽やかな笑顔の凉さんだった。



「あ、おはようございます」

「はい、おはようございます」



そう言いながら、手に持っていた真新しい洗面用具と、洗濯されてキッチリとたたまれた制服を渡してくれた。



「洗面台はこちらにございますので、ご自由にお使いくださいとのことです」



部屋の中の1つのドアを開けて見せてくれた洗面台。


部屋の中にあるのかっ!!



「お支度が済みましたら、声をおかけくださいね。外におりますので」

「あ、あの、紺野くんはーー‥」



すると、凉さんは爽やかな笑顔を少し崩して



「来客中でございます」



と言い残し、外へと出た。




大きな窓からは

夏の爽やかな蒼が広がる。



けれども、

そんな空の端には

黒くて低くて

全てを飲み込んでしまいそうなくらいに

大きな 大きな雲が


私たちを覗き見ていたんだ。




< 91 / 207 >

この作品をシェア

pagetop