ますかれーど
--心side--
眩しい光でふっと目を覚ますと、この広いベッドに独りきりだった。
「紺野‥くん?」
部屋をキョロキョロと見回すけれど、彼は居ない。
私、いつの間に寝ちゃったんだろう。
まだ耳に残る彼の声。
『俺のコト、好き?』
ーー‥応えられなかった。
好き?嫌い?
それは好きだよ?
でも、彼が求めてるのは、その“好き”じゃないんだよね?
愛おしいと思う。
触れていたいと思う。
唇を重ねる度に身体の中が熱く反応して、苦しくなる。
ーー‥好き。
でもね、口に出すことができないの。
ココロの中がどこかもやもやとして、
言葉になって出てこない。
なんで?
わからないーー‥
待たせてごめんね。
でも、どうか待っていて欲しい。
だんだんと、あなたのことを好きになっていくのが分かるから。
口に出せるその日までーーどうか、その無邪気な顔を私に向けて、
『心太っ』って笑っていて欲しいんだ。
わがままで、ごめんね。
コンコン、ガチャ‥
「あ、お目覚めでございましたか」
片側の扉が開いて入ってきたのは、朝に映える爽やかな笑顔の凉さんだった。
「あ、おはようございます」
「はい、おはようございます」
そう言いながら、手に持っていた真新しい洗面用具と、洗濯されてキッチリとたたまれた制服を渡してくれた。
「洗面台はこちらにございますので、ご自由にお使いくださいとのことです」
部屋の中の1つのドアを開けて見せてくれた洗面台。
部屋の中にあるのかっ!!
「お支度が済みましたら、声をおかけくださいね。外におりますので」
「あ、あの、紺野くんはーー‥」
すると、凉さんは爽やかな笑顔を少し崩して
「来客中でございます」
と言い残し、外へと出た。
大きな窓からは
夏の爽やかな蒼が広がる。
けれども、
そんな空の端には
黒くて低くて
全てを飲み込んでしまいそうなくらいに
大きな 大きな雲が
私たちを覗き見ていたんだ。