ますかれーど
支度を済ませて部屋を出ると、凉さんがエスコートするように私の斜め前を進んでいく。


迷路みたいなこの家を、凉さんと他愛ない話をしながら歩いていると、キンキンと耳に響く声が聞こえてきた。



「ーーんでよっ!!答えてっ」

「答える義務はない」

「あるわっ!絶対あるっ!!話してっ」

「話す気もない」

「ちあっ!!!」



「あ‥心太……」



1階と2階とを繋ぐ吹き抜けの階段。

その下で言い争っていた2人。


私たちは、この状況を通過しても良いものかと迷って、顔を見合わせて佇んでいたんだ。



「お、おはよう」

「あ‥あぁ、おはよう」



なんとなく気まずい朝の挨拶を交わす。



「あ‥んた‥っ」



射抜かれた鋭い視線。それに昨日と同じ恐ろしい程の憎しみを感じ、身体の芯が震え始める。



「なんでまたここに‥ーーっ!!まさかっ!」



金に近い、蜂蜜みたいな綺麗な色の髪の毛は、くりんくりんと2つに結ばれている。

ものすごく小さい顔。緑色に溢れるその大きな瞳は、鋭く、憎しみを湛えながら真っ直ぐに私を見ていた。


なんて可愛く、なんて強い子なんだろう。


ズカズカと近付いてくるその女の子の迫力に、思わず1歩、後退りする。


ジロジロと上から下まで私を見回した彼女は、フンッと鼻を鳴らし、その細い腕を伸ばしてーー‥



ガッ!!



「おいっ!」
「姫衣様ッッ!」



私のブラウスの襟を両手で掴み、3番目のボタンがはじけるくらいまで広げた。


コロコロと転がっていくボタン。



ブラが見えるくらいまではだけたその胸を、じっとりと見る彼女の緑色の瞳に、

私は恐怖で支配され、隠すことも、振り払うこともできなかった。



「はっ。ないじゃない」



嫌味っぽく鼻で笑った彼女は、私の耳元に口を寄せて、声を潜める。



「ちあはねぇ、好きなモノには自分のしるしをつけるの」



そして、少し得意気に声を高くした。



「でも、あんたにはそれがない。一晩 一緒にいてそれがないなんてねっ」



勝ち誇ったようにニヤリとした笑みを浮かべる彼女には、もう恐怖しかなくて。



「でも、あんたは許さない。ちあを理解できるのは、私だけなのよ」



緑が蒼と相対し、声が低くなったその時

振り上げられた

その手のひら……




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