ますかれーど
「「可愛いーっ」」



私を見るなり声を揃えた優花さんとお母さん。



「似合うねぇ♪」

「可愛いよ~」



なんかちょっと、恥ずかしかった。



「みぃの昔の舞台衣装とか似合うかもね?」

「そうね♪探してみようかな?」

「舞台?」

「母さんと魅さんは、うちの学校の音楽祭3連覇したんだってさ」



おぉ!初耳だっ!



「生徒会室に、歴代王者の写真ないかな?昔、拓弥さんが撮ってくれたのよね」

「私たちの若かった頃の写真かぁ。見たいような、見たくないような‥」

「「ふふっ‥あはははははははははは」」



2人は、顔を見合わせて爆笑し始めた。



「母さんたち、楽しそうだね」

「うん」



この、笑い声のある空間が好き。

大好きだ。





ーーーーーーーー‥






バンッ!!



「待ちなさいクロっ!!」

「‥んだよっ!まだ何かあんのかよっ」



玄関扉が勢いよく開く音と、男2人の怒鳴り声が響く。



「まだ話は終わってないっ!」

「父さんが勝手に話してるだけだろ!」

「クロっ!!」

「なんだよっ!これは俺の問題だっ!!父さんは口を出すなよっ!」



あまりの激しい口論に驚き、何も考える余裕なんてなくて‥女4人は傍観することしかできない。



「お前の様子が変わり始めてから2ヶ月。黙って見ていたがーー‥」

「だったらずっと黙って見てろよっ!」

「見てられないから言ってるんだろうっ!?」


「父さんには関係ねぇだろっ」



拓弥さんを振り切って左の階段を上り始めた玄。



「クロっ!!待ちなさいっ!玄っ!!!ーー‥くっ‥」



大きな音を立てて玄の部屋のドアが閉まった。


追おうとした拓弥さんは拳を強く握り、それで階段の手すりを思いっきり殴った。


そして、頭を片手で抑え、苦しそうな顔を見せる。



「‥拓弥?」

「あ‥あぁ優花」

「大丈夫?拓弥さん」

「っえ!?魅ちゃん?」



すると拓弥さんは、バッと私と麗花の方を振り返り、気まずそうに眉間にシワを寄せた。



「……心ちゃん」



私の名前を呼んだ拓弥さんの声は、

とても、とても
悲しそうだったんだ。




ガラス戸の向こうでは


ポツリ、ポツリと

ついに空が泣き始めていた。





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