ますかれーど
みんなの視線が悲しく私に刺さる。


ーー‥何で?



「心っ!私の部屋いこっ」



二の腕を強く引っ張られて、よろよろと右の階段を上る。

そして、玄とは真逆の1番右端のドアの中へと入っていく。



「麗花?」



スッと腕を放した麗花は、部屋の真ん中にあるマイクロビーズのクッションに体を埋めた。



「心‥」



麗花の声が、いつになく低い。

そして、顔をその両手で隠して呟く。



「あんな顔‥しないで」



ーー‥え?



「私‥?どんな顔してた?」



自覚がない。

自分の中の感情すら理解していない私が、外の顔なんて理解出来ているわけがない。



「泣きそうな顔‥してた」



泣きそう‥?私が?

何に?
何で?
何のために?



「心?」



私の名前を呼んだ麗花は、光を湛える綺麗な紅茶色の瞳で、真っ直ぐに私の蒼を見つめる。



「兄貴に、何か言われた?」

「ーー‥っ!!」



麗花は鋭い。
そして優しい。

それに、なんでもお見通しだ。



「はぁ。そっか‥。兄貴、変わったでしょ?」



そう。変わってしまった玄。

この2ヶ月くらい、あまり‥というか全く顔を合わせてない。

話す機会さえなかった。


さっき私が見た玄は、私が知ってる玄とは、まったくの別人のような気さえする。



頭をよぎるのは、あの言葉‥



「兄貴ねぇ、2ヶ月前、蒼さんが出発した日の夜に、みー姉んとこで酒を飲んで帰って来たのよ」



ふっと瞳を逸らした麗花の隣へと腰を下ろす私。



「その日から‥かな。徐々に変わり始めたのは」





ーーーーーー‥




麗花の話してくれる玄の変わりように、私は驚きを隠せなかった。


街中を歩いてる女や家に連れてくる女はいつも違う人。

電話で呼ぶ名前は毎回違う名前。



クールで硬派で通っていたはずの玄。


ーーなんで‥?



「雰囲気まで変わっちゃってさ、今や迂闊に声をかければ殺されちゃいそうだよ」



ははっと力なく笑う麗花。



「兄貴の瞳‥見た?」

「ううん」



あの時も、今も、そんな余裕なかった。



「死んだような瞳、してる‥」



夜の光に照らされる麗花の瞳。


ゆらゆらと揺れて見えたのは、気のせい‥?



空は、声を上げて
泣き始める。




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