坂井家の事情
「はー……何とか間に合ったようだな」
息を整えつつバッグを机の上へ無造作に置くと、ドカッと勢いよく椅子に座った。
「遅刻ギリギリだな」
前の席で雑誌を読んでいた大輔が振り向いた。
「今日は律がグズってさ。まあ、そっちも何とか間に合ったからいいけどな」
「なんだか毎日大変そうだな。響たちの送り迎え、今までずっと誠一郎(せいいちろう)さんがしてたんだろ。もしかして仕事のほうが忙しくなったのか?」
「そうじゃないけど……俺もこれくらいは手伝わないといけないからな」
父親が強制しているわけではない。寧ろ「送り迎えは親の務めだから、悠太が心配することではないよ」と言ってくれていた。
しかし彼自身が望んで自分にやらせてくれと、頼んだのである。
悠太ももう中学生なのだ。
母親が亡くなってから少しは手伝いをするようになったとはいえ、家のことや弟妹の身の回りの世話は今まで、殆ど父親がやってきた。
手のかかる彼らの面倒を一人で見ることがどれ程大変かというのは、側で見ていた悠太が一番知っている。
だから中学生になった今、自分にできることならば何でもしたかったのである。
「それに」
途端、悠太の顔がふにゃっと崩れる。
息を整えつつバッグを机の上へ無造作に置くと、ドカッと勢いよく椅子に座った。
「遅刻ギリギリだな」
前の席で雑誌を読んでいた大輔が振り向いた。
「今日は律がグズってさ。まあ、そっちも何とか間に合ったからいいけどな」
「なんだか毎日大変そうだな。響たちの送り迎え、今までずっと誠一郎(せいいちろう)さんがしてたんだろ。もしかして仕事のほうが忙しくなったのか?」
「そうじゃないけど……俺もこれくらいは手伝わないといけないからな」
父親が強制しているわけではない。寧ろ「送り迎えは親の務めだから、悠太が心配することではないよ」と言ってくれていた。
しかし彼自身が望んで自分にやらせてくれと、頼んだのである。
悠太ももう中学生なのだ。
母親が亡くなってから少しは手伝いをするようになったとはいえ、家のことや弟妹の身の回りの世話は今まで、殆ど父親がやってきた。
手のかかる彼らの面倒を一人で見ることがどれ程大変かというのは、側で見ていた悠太が一番知っている。
だから中学生になった今、自分にできることならば何でもしたかったのである。
「それに」
途端、悠太の顔がふにゃっと崩れる。