坂井家の事情
「遥香先生に毎日逢えるしな」

締まりのない顔のままで頬杖をつく。大輔はそんな悠太に対して、少し呆れ気味な視線を送った。

「ハルカ先生って、そんなにいい女なのかよ。もしかして『みずっきぃ』みたいな?」

大輔は持っていた雑誌を広げると、悠太の机の上にそのまま置いた。

そこにはシーツ1枚だけを全身に羽織り、挑戦的なポーズを取りながら寝そべっている女性の姿が、大きく見開きで載っていた。

「馬鹿! そんなのと一緒にするなよ。俺の遥香先生がヨゴレちまうだろうが」

思わず写真の顔を遥香で置き換え、想像してしまった悠太は真っ赤になって怒った。

「なんだよヨゴレって。しかもいつからお前の女になったんだよ」

ファンである『みずっきぃ』こと、七宮(ななみや)みずきを侮辱された大輔は口を尖らせる。

「このくらいいい女なら、一度見てみたいと思っただけじゃないか。来週から中間だから、今日から放課後は部活ないしな」

「! 今日見に行くつもりだったのかよ。お前の言う『いい女』って、身体のことだけじゃないか」

「それ以外、一体何があるっていうんだよ」

さも当然といった表情で、悠太を見詰めている大輔。悠太のほうも無言で見詰め返していたのだが、途中から決意の籠った視線に変わった。

「俺は決めた。お前の魔の手から遥香先生を守ってやる。お前なんかに、絶対に犯させたりはしないからな!」

強い口調で宣言した悠太へ「俺をレイプ魔みたいに言うな」と大輔が文句を言った時、目の前の机がバンッと強く叩かれる。

驚いて見上げると、そこに居たのはさやかだった。
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