坂井家の事情
「そんなことはどうだっていいんだよ」

再び机を叩き、上目遣いで真っ直ぐにさやかを睨み付ける。どうやら頭に血が上ったままの彼の視界には、まだ周囲が目に入っていないようである。

「昨日は遥香先生の前で響にやられて、凄く恥ずかしい思いをしたんだからな。お前のせいだぞ!」

「何でそれが私のせいになるのよ」

「お前が響をけしかけたからだよ」

「私は別にけしかけてなんかいないわよ。そんなことくらいでやられている、あんたのほうが悪いんでしょ」

「なっ…」

平然と言い放つさやかに、悠太は二の句が継げなかった。あの痛みは男にしか分からないのである。

「『そんなことくらい』だと!?
あれがどれだけ痛いか知らないから、そんな風に言えるんだ」

「私がそんなの知るわけないでしょ。ていうか、知りたくもないわね」

さやかは腕を組んだまま、高圧的な態度を崩さずに悠太を見下ろした。

いつもの威圧感に圧倒されそうになった悠太は、それを振り払うかのように指を突き付ける。

「なら復讐だ! お前にも同じ痛みを味わわせてやる!!」

「へ〜、どうやって? どんな方法で?」

目を細め、人を小馬鹿にしたようなその態度が、更に悠太の神経を逆撫でしていた。

「今日の放課後、首を洗って待っているんだな!!」
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