坂井家の事情
「ち、畜生……
怪力デカメスゴリラめ!」

床に這い蹲った格好で罵りの言葉を浴びせたが、彼女は冷ややかな視線を下へ向けただけだった。

さやかは身長が166㎝もあり、12歳という年齢のわりには大柄な体型をしていたが、かたや悠太は142㎝と小柄である。

普通に並んで立っていても、体格に差があるのだ。

背の高い彼女の真上からの視線は、悠太にとって妙な威圧感があった。

蛇に睨まれる蛙、或いは猫に襲われる直前の鼠の心境が、良く分かるような気がした。

悠太はその視線から逃れるように重い身体を起こすと、渋々と黒板を消し始めた。

二人を見物していたクラスメイトたちもこれ以上のバトルは起こらないと判断したのか、蜘蛛の子を散らすように去っていく。が、その中から女生徒二人が近づいてきた。

「さやかちゃん、ありがとう。坂井君ていつも授業終わるとすぐ帰っちゃうから、なかなか捕まえられなかったの」

「そういうことなら、いつでも私に任せておいて。アイツの行動パターンは小学生の頃から、把握しているからね」

さやかは悠太への態度とは違い、女生徒たちにはにこやかに応対している。
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