坂井家の事情
血の気の引いた顔を、恐る恐る上へ向けてみる。

そこには予想通り、柴田綾子が鬼のような形相で見下ろしていた。

「ゲッ、シバセン…」

呟いた途端、二人の頭が同時に叩かれる。筒状に丸められた教科書で叩かれたので、実に軽快な音がした。

「あたしの授業中にそんなものを見ているなんて、いい度胸してるじゃないか」

仁王像のように佇む綾子の全身からは、悠太でも感じ取れるほどの迸(ほとばし)るような殺気が放たれていた。

「これは没収な」

言うが早いか、大輔の元から雑誌を取り上げる。反論する間さえ与えられなかった。

綾子はそのまま2冊を見せびらかすように頭上へ掲げると、クラス中に響き渡るような声で言った。

「お前らもいいか!
こんな物を学校に持ってきたら、即没収だからな!!」

クラス中が一斉にどよめいた。
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