坂井家の事情
「何だよ圭吾、俺を裏切る気か?」

「裏切るも何も、クラス委員として見過ごせるわけないだろ。
1ヶ月ある掃除当番の内、半月もサボりやがって」

この真っ当な意見に悠太は一瞬黙り込んだのだが。

「な、頼むよ圭吾。俺、早く帰らないといけないんだしさ。見逃してくれよ」

神にでも拝むかのように、目の前で両手を合わせると懇願した。

「そりゃ、僕もさやかもお前ん家の家庭の事情は知ってるけどさ」

悠太には5歳になる双子の弟妹がおり、これから彼らを保育園まで迎えに行かなければならなかったのだ。
これは中学入学以降、悠太の役割となっていた。

「少しくらい行くのが遅れても、大丈夫なんだろ?」

「いいや、駄目だ」

急に真顔になると、首を左右へ振る。

「あいつらにとって俺は、3年前に死んだ母ちゃんの代わりなんだぜ。
俺は母ちゃんに早く迎えに来てもらった時、凄く嬉しかったのをよく覚えている。
だからあいつらも早く迎えに行ってやったほうが、きっと嬉しいに違いないんだ。
俺が昔母ちゃんにしてもらったことを、母ちゃんを知らないあいつらにも体験させてやりたいのさ」
< 4 / 68 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop