坂井家の事情
「エライ自信だな。でもあと5分しかないぜ」

大輔は壁に掛けてある時計を見る。その真下では二人が互いの手を掴み合い、牽制し合っていた。

「朝のホームルームの後でさやかに、勝てそうかどうか改めて訊いてみたんだよ。今回は特に女装が掛かっているから、悠太も本気で勝ちにいくと思ったしな」

「へぇ…で、さやかは何て?」

「それはさやかも予想していたらしくて『だったら自分もいつものように手を抜かないで、全力で受けて立つ!』と、熱くなっていたよ」

「ふーん。あいつ悠太が相手だと、結構ムキになるところがあるからな」

大輔は二人を眺めながら、何気なく相槌を打っていたのだが。

「……て、ちょっと待てぃ!」

圭吾の言葉の中で、引っ掛かる部分があることに気が付いたのだ。危うく聞き流すところであった。

「『手を抜かないで』ってことは、まさか今までは『手を抜いていた』のか?」

「だろうな。だからさやかも今回は、本気で相手をするらしい。一瞬で決めるとも言っていたしな」

(アイツ一体、どれだけ強いんだよ)

少なくとも悠太には現在のところ、負けなしである。

さやかとはまともにやり合ったことはなかったが、もしかしたらこの自分でも勝てないかも知れない。

ここで大輔は、悠太が誘拐されそうになった時の話を、ふと思い出していた。
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